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大塚晶則 メジャーの意地とジャパンの誇り。 

text by

永谷脩

永谷脩Osamu Nagatani

PROFILE

posted2006/04/06 00:00

 2次リーグの地・アナハイムの選手宿舎の前に位置するホテルで4人の家族連れが朝食を取っている。それは、ディズニーランドに遊びに行く前の、どこにでもある家族の光景のように見えた。

 「野球選手をやっていると家族と過ごす時間はどうしても少ない。でも、父親の仕事を誇りに思ってもらいたいし、何より父親が日本代表だということを見てほしかった」

 大塚晶則は家族を連れてきた理由をこう説明した。今季で3年目のメジャーになる大塚は、サンディエゴが本拠地のパドレスに昨年まで所属していた。家族は今もサンディエゴに住んでいる。休養日には投手陣を連れて、食事にでかけた。それだけ世話を焼くのは、日本野球の存在を世界に知らせたいという思いからだった。

 「海外に出れば、日本を余計に感じるんです」

 個々のプレーヤーは評価されても、メジャーで日本野球の評価はそれほど高くない。今回は日本の野球を世界に認識させるいいチャンスだと決意していたのだ。

 王監督は早い時点で、大塚を抑えにするプランを立てていた。メジャーリーガーの2人に、「イチローが最初に打って引っ張り、大塚には最後を締めて、勝利に導いてもらいたい」と告げた。「メジャーの連中の話を遠慮なく聞かせてやってほしい」とも頼んだ。

 「メジャーと言っても、すごいのは一握り。たいしたことはない。日本の投手の方が技術がある」

 そんな大塚の言葉に、渡辺俊介は「なんとなく、抑えられる」ような気になった。変化球のコントロール、走者を置いてのクイック投法、いずれの面でも、日本のほうが上であると大塚は思っている。

 決勝戦の試合前、大塚は王監督にこう言われている。

 「2回投げてもらうかもしれない」

 「大和魂です」

 と即答した大塚。王監督はその右肩を何度も叩いた。言葉通り、大塚に声がかかったのは8回一死、1点差に迫られた時だった。

 大塚は、家族の応援があるサンディエゴのぺトコパークではほとんど打たれた記憶がない。自信を持って上がったはずのマウンドだが、「いつもと少し違った風景だった」と大塚は言う。決勝のプレッシャーが意識を高揚させたのだろうか。しかし、メジャーリーガーのプライドが大塚を支えた。

 「メジャーがアマチュアに負けるはずがない」

 1人目の打者を投手ゴロで打ち取ると、もういつもの大塚だった。次の打者をライトフライに打ち取ると、流れは再び日本に戻った。9回表、4点を加え、10対5。

 9回裏、1点を失ったものの、世界一まであと一死。王監督がタイムをとる。マウンドに来ると、大塚にたった一言だけ言った。

 「あと一人だからな」

 大塚が、最後の打者をスライダーで三振にとり、日本の優勝が決まった。

 シャンパンファイトに酔った後、着替えを終えて出てきた大塚は言った。

 「このメンバーと別れたくなかった。少しでも長くジャパンでいたかったから、最後までロッカーにいました。いいチームでした」

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