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ファンデルファールトとスナイデル「若きエリートがオランダを救う」
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
posted2004/06/17 00:00
オランダ代表には、選手とテーブルに座って話せる“プレス・デー”がある。
丸テーブルがいくつも用意されて、選手のまわりを記者が囲むようにしてインタビューするのだ。一番正面のメインテーブルはクライフェルト、一番後ろの最も大きい机はファンニステルローイで、あとは4、5人程度の小さなテーブルだ。
5月26日、EUROに向けたオランダ合宿の初日、そのプレス・デーが開催された。
会場のホテルの部屋に、先頭を切って21歳のファンデルファールトと20歳のスナイデルが大声で笑いながら入ってきた。ふたりの体型は実によく似ている。少し短足で顔がでかく、アヤックスでは“デ・ブルッチュ”(兄弟)と呼ばれているくらいだ。ふたりはアヤックスでもオランダ代表でも常にいっしょに行動しており、このときもファンデルファールトがふざけてスナイデルの腹をつっつきながら歩いてきたところだった。
今回のEURO予選で、オランダ代表を救ったのは、このふたりの若者だった。
グループリーグでチェコに1分1敗と競り負けたオランダは、スコットランドとのプレイオフにまわることになった。だがアウェーの1試合目は、試合のペースを握りながらもスコットランドに1対0で負けてしまったのである。2試合目のホームは絶対に勝たなくてはいけない。オランダ代表のアドフォカート監督はついに決断し、それまで中心選手だったエースのクライフェルトとキャプテンのフランク・デブールをベンチに追いやり、トップ下にファンデルファールト、守備的MFにスナイデルを抜擢する賭けに出た。この起用が見事にあたり、スナイデルは1得点3アシストし、ファンデルファールトも攻撃にリズムを与えた。オランダは6対0で快勝し、ふたりの若手の活躍でポルトガル行きの切符を掴んだのだった。
ふたりは見た目は似ているが、プレイスタイルは全く違う。スペイン人の母親を持つファンデルファールトは、ラテンのリズムを持ち、レフティーらしい柔らかいパスも出せれば、ドリブルしながらヒールキックでスルーパスを出すこともできる。オランダのトータルフットボールに、軽快なテンポを与えているのがファンデルファールトだ。私生活も華やかで、5歳年上のオランダのTV女優とつきあっており、雑誌“レブ”の今季のベストカップルに選ばれた。中には「ファンデルファールトはセレブになって変わった」と陰口を叩く者もいるが。
それに対してスナイデルは、恐ろしく機械的なプレーをする。中盤の底から正確なロングパスを供給し、左右の足でCKを蹴ることができる稀有な選手だ。まるでオーケストラの指揮者のように選手の動きを導くことから、スナイデルはオランダで“コンダクトゥール”と呼ばれている。スナイデルが守備的MFの位置からウイングを操り、ファンデルファールトがトップ下でストライカーに決定的なパスを出す。全く異なる2つの攻めの型が、彼らが入ることによって生まれる。
ヨハン・クライフでさえも「最近の選手は両足で蹴れなかったりテクニックがないが、ふたりだけは例外だ」と手放しで褒めるほどだ。
ホテルの会場を見渡すと、ファンニステルローイ、クライフェルト、マカーイ、セードルフら主要リーグで活躍するスターたちが、ポロシャツ姿で気軽に取材に応じている。オランダ代表ファンなら目まいがしそうなほどの豪華なメンバーがいる中、ファンデルファールトのテーブルに向かった。
ファンデルファールトは、EUROの思い出から語り始めた。
「やっぱり一番思い出に残っているのは、オランダが優勝した1988年のEUROだ。そのとき、ボクは5歳だったけど、ファンバステンの活躍は網膜に焼きついているよ。決勝で彼が奇跡的なボレーシュートを決めたときは、気づいたら部屋を走り回っていた。ああいうゴールをEUROで決めてみたい」
テレグラフ紙のアンケートでは47%の人がオランダ優勝と予想した。オランダ代表のトップ下を担うファンデルファールトにとって、オランダを優勝させることは義務のようになっている。
「EUROではいいスタートを切って、タイトルを取りたい。オランダ代表はみんな2002年W杯に出場できなかった屈辱を晴らすことに燃えている。自分はその中にいなかったけれど、同じことを思っているよ」
それでは、オランダ代表が優勝するためには、何が必要なのだろうか?
「ベテランと若手の融合がオランダの鍵だ。スコットランド戦でうまくいったのは、監督がそのバランスを見つけたからだ」
ベテランと若手の融合。確かにそれがオランダ代表の核心かもしれない。
(以下、Number604号へ)