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玉田圭司 「遅れてきたレフティ」
text by
神誠Makoto Jin
posted2004/06/03 00:00
池谷は今年、すっかりエースの風格をたたえた玉田と再会を果たし、監督として初めてのシーズンに臨んでいる。
こうして、チャンスをモノにすることで“自信の階段”を歩み、ついに日本代表までのぼりつめた玉田だが、彼の自信を支えてきた最大の武器が何かと言えば、それはまぎれもなくスピードとドリブルだ。今回の遠征でも、フィジカル重視の東欧2チームが相手だったとはいえ、スピードがモノを言う平面の1対1で臆せずドリブル勝負を仕掛け、何度となくマーカーを置き去りにしてきた。とにかく前を向いてボールを持った瞬間から、彼のショータイムは始まっている。そして“抜くと見せかけて、本当に抜く” それが玉田圭司の醍醐味だ。
チェコ戦で見せたインターセプトからのドリブルシュートも、1対3の局面で「まさか突っ込んでくるはずがない」という相手DFの心の隙を突き、中へのワンフェイクから外に持ち出して一気に抜き去ったものだった。
「観客を沸かせるプレーをしたい」
ドリブラーのチャレンジは無謀と紙一重ながら、彼がピッチに立つ最大のモチベーションが、この瞬間に凝縮されている。
あえてもうひとつ、彼の代わりにアピールするなら、スピードに乗ったドリブルから一瞬減速した直後に繰り出される、糸を引くようなスルーパスも見物だ。受け手の走る先にピタリと合い、それでいて相手DFが届かないコースを抜ける、優しいキラーパス。自らを「ストライカーというより、どちらかといえばチャンスメーカー」と評する玉田の、もうひとつの魅力がそこにある。
そんな彼に、「あなたにとって、理想のゴールとは?」と聞いてみたことがある。
果たして、彼の答えは“マラドーナの5人抜き”だった。ドリブラーならではの模範回答だが、彼の観点で言えば、最後にキーパーまで抜き去って決めるところにポイントがある。要するに最もウエイトを置いているのは、観客をいかに沸かせるか、そして楽しませるか。コメントにもときおり表われる自意識は、あくまでもスタンドからの視線を前提にしているのだ。そのことは、彼のこんな言葉からもうかがえる。
「たくさん点が入るゲームが好き。チーム的には0点の方がいいけど、僕的には何点取られてもいい。1-0より4-3とかで勝った方が、観てる人も楽しいと思うんで」
点が入るゲームが好き。玉田がそう語るとき、思い描くスコアボードには当然自分の名前が並んでいる。自分がゴールを決めて、それもなるべくたくさん決めて、そして最後は勝っていたい。それが無邪気な本心だ。