フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
チャン、高橋、ヨナ、安藤、浅田……。
世界フィギュアは前代未聞の大混戦!?
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byGetty Images/REUTERS(AFLO)
posted2011/04/22 10:30
GPファイナル優勝を含め、今季3回優勝のパトリック・チャン(カナダ)は、優勝候補ナンバー1。一方、韓国でM・クワンの義兄オペガード氏をコーチに練習を重ねてきたキム・ヨナ。今季、安藤美姫や浅田真央の得点は低いが、実戦から離れたヨナがどれほど復活しているかが鍵となる
「日本の震災のニュースを見たら、フィギュアスケートなんてとてもちっぽけなことに思えた」
電話の共同記者会見で、スコット・モイアはそう口にした。
現アイスダンス世界チャンピオンである彼の言葉は、私たち全員の正直な気持ちでもある。3月11日の震災後、月末に東京で開催される予定だった世界選手権はいったん延期とされた。秋に東京での開催、延期して他国で開催するなど様々な案が浮上したが、今年は中止が一番妥当ではないかという意見も多かった。
1961年には世界選手権に向かった米国代表選手団全員が飛行機事故で死亡し、世界選手権そのものが中止されたという前例もある。だが今回は、代表選手が直接被災したわけではなかったためでもあるのだろう。国際スケート連盟(ISU)は「ショー・マスト・ゴー・オン」の決断をくだした。
4月24日から代替地に選ばれたモスクワで、平年の1カ月遅れの世界選手権が開催される。
優勝が決まっているかのような取材を受けるパトリック・チャン。
「この1カ月を精神的にどう消化したかが、勝敗を左右することになるでしょう」とパトリック・チャン(陳偉群/カナダ)は語った。
カナダの連盟がアレンジした電話での共同記者会見では、参加した北米のジャーナリストたちの質問は、まるでチャンの優勝が決まっているかのような口ぶりだった。
「優勝候補として試合に赴くプレッシャーは?」
「勝てるかもという立場と、最強の選手としていく気分の違いは?」
現在世界タイトル保持者は、高橋大輔である。
だが今季はまだ高橋は試合で本調子の滑りを見せていない一方、パトリック・チャンは恐ろしいほど勢いのある演技を見せてきた。
GPファイナルでは初のタイトルを獲得し、カナダ国内選手権ではフリーで2回の4回転を成功させて優勝している。
もともと優れたスケーティングの技術で高い評価を受けてきた彼は、過去2年間、4回転なしの演技で2回世界銀メダルを手にしてきた。そのチャンに4回転が加わった今季、北米の記者たちが彼は敵なしと考えるのも無理はない。
モスクワでもSPで1回、フリーで2回、4回転をやると宣言している。だが浮かれている記者たちを諌めたのも、チャンだった。
「でも、優勝候補はぼくだけではない。日本の選手たちはきっと、これまで以上にモチベーションを上げてこの大会に挑んでくるだろうと思う」