モンテネグロの南西部にそびえる1749mの名峰ロブチェンは、石灰岩に覆われた武骨な山容を誇示するかのように四方を見下ろす。国名の由来にもなった「黒い山」は、頂上の霊廟に19世紀の君主を祭った聖地でもある。
今、その名をゼッケンに背負う黒鹿毛の優駿が、日本の競馬界に君臨しようとしている。王者の威容を漂わせ、肩や尻に隆起した筋肉は、あの山肌を連想させる。
泰然自若な立ち居振る舞いも山のごとし。見知らぬ人間が馬房を訪れても、平気で寝転がって無防備な姿をさらす。主戦騎手として手綱を握る松山弘平も舌を巻く。
「落ち着いていて、度胸の据わった馬だなと思います。すごくどっしりしていて、人間の指示にも従順です」
ひとたび走り出せば、身をかがめるように低くして、傾斜を滑る急流さながらに駆ける。戦法は水のごとく変幻自在だ。皐月賞を逃げ切り、ダービーを差し切った。そんな二冠馬はかつていなかった。
「逃げるとか差すとかの自在性がある馬はけっこういると思うんですけど、それ以外にも、馬場やコースに関しても自在性があるのはすごいことだと思います」
2010年から7戦連続で二桁着順だが
秋初戦の神戸新聞杯も先頭で駆け抜け、いよいよ史上9頭目となる三冠制覇へ挑む時がきた。セントライト、シンザン、ミスターシービー、シンボリルドルフ、ナリタブライアン、ディープインパクト、オルフェーヴル、コントレイル。不世出の名馬たちと肩を並べられるのか。秋深い京都が熱気に包まれる。
栄光へと続く淀の長丁場は、デビュー18年目の松山にとって険路であり続けてきた。菊花賞では初騎乗の2010年から7戦連続で二桁着順が続き、過去11度の挑戦で6着が最高。掲示板に載ったことすらない。
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