ゴールデンウィーク最終日の昼下がり、私は横浜にいた。JR関内駅の改札を出ると、すでに人々の波がスタジアムへと流れていた。穏やかな陽射しの下、コバルトブルーやアクアブルーに真紅も混じった色彩豊かなベースボールキャップの花が交差点に咲いていた。
グラウンドに出ると、すでに広島カープがゲーム前の練習を行っていた。若い選手を登用して発芽を待つ。過渡期であり、育成期にあるチームはペナントレース序盤から苦戦を強いられ、リーグテーブルの下半分に沈んでいた。監督である新井貴浩の背中にも心なしか疲れが滲む。
「最近、よく眠れているよ」
新井は冗談めかしたが、笑みにもどこか力がなかった。ただ、私はこの日、ゲームを見に来たわけではなかった。華やかな舞台の裏で、勝敗とは別のものと戦っている人物に会うためだった。
ビジターチームの練習が終わると、カープのスタッフウェアを着た男がひとり、球場裏の駐車場へと向かった。いつも球場に姿があるのを認識してはいたが、書き手として何年もプロ野球の現場にいながら、いまだその実態に触れたことのない人物だった。
「試合が始まったら僕は寝るんです。言うたら仕事の準備ですよね」
前洋央はカープの用具運搬担当者である。駐車場の隅には赤と白の通称カープトラックが停まっている。球団所有のトラックだが、前にとっては気心の知れた相棒だ。運転席の後ろには人ひとりが横になれるだけのスペースがあり、そこで仮眠を取るのだという。
プラン紹介
「雑誌+年額プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています
「雑誌+年額プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています
この連載の記事を読む
記事


