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「試合が始まったら寝るんです」走行距離は地球10周以上…広島カープ用具運搬担当者が毎日ハンドルを握る理由《連載:広島カープ「鼓動」》

2026/08/25
その男がいなければ、チームの試合は始まらない。雨にも負けず風にも負けず、西へ東へどこまでも、プロの矜持を胸に、今日もトラックを走らせる。(原題:[鼓動 カープと広島の2026年]第5回 夜を往く)

 ゴールデンウィーク最終日の昼下がり、私は横浜にいた。JR関内駅の改札を出ると、すでに人々の波がスタジアムへと流れていた。穏やかな陽射しの下、コバルトブルーやアクアブルーに真紅も混じった色彩豊かなベースボールキャップの花が交差点に咲いていた。

 グラウンドに出ると、すでに広島カープがゲーム前の練習を行っていた。若い選手を登用して発芽を待つ。過渡期であり、育成期にあるチームはペナントレース序盤から苦戦を強いられ、リーグテーブルの下半分に沈んでいた。監督である新井貴浩の背中にも心なしか疲れが滲む。

「最近、よく眠れているよ」

 新井は冗談めかしたが、笑みにもどこか力がなかった。ただ、私はこの日、ゲームを見に来たわけではなかった。華やかな舞台の裏で、勝敗とは別のものと戦っている人物に会うためだった。

 ビジターチームの練習が終わると、カープのスタッフウェアを着た男がひとり、球場裏の駐車場へと向かった。いつも球場に姿があるのを認識してはいたが、書き手として何年もプロ野球の現場にいながら、いまだその実態に触れたことのない人物だった。

「試合が始まったら僕は寝るんです。言うたら仕事の準備ですよね」

 前洋央(まえたかひろ)はカープの用具運搬担当者である。駐車場の隅には赤と白の通称カープトラックが停まっている。球団所有のトラックだが、前にとっては気心の知れた相棒だ。運転席の後ろには人ひとりが横になれるだけのスペースがあり、そこで仮眠を取るのだという。

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photograph by Hideki Sugiyama

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