記事を
ブックマークする
「ユヅは世界で独自の地位を築き…」五輪“金メダル最有力”イリア・マリニンが語る羽生結弦と『SEIMEI』への思い「5回転ジャンプは準備中です」
12月に名古屋で開催されたGPファイナル。オリンピックの前哨戦とも言われる世界一決定戦のフリーで、「6種類7本の4回転ジャンプ成功」の金字塔を打ち立て優勝したのは、イリア・マリニン(米国)だった。
「人生で最高の演技の一つでした。やり遂げられたことが本当に誇らしいです。でも、その演技内容から、いくつかの課題を得ることもできました。オリンピックまでの数カ月間、さらに改善をし、ジャンプだけでなくスピンやスケーティングも含めた真のパーフェクト演技を披露したい。同じ成功をオリンピックでできるという自信も深まりましたし、同時に、もっと良い演技ができると思うとワクワクしています」
『4回転の神(Quad God)』の呼称も、大げさではない。まさにフィギュアスケート史に名を刻むジャンプの天才である。'22年9月に4回転アクセルを世界で初めて成功させ、'24年GPファイナルのフリーでは「7本すべてのジャンプで4回転」に挑戦。その時は7本とも回転が足りない判定だったが、1年を経て、人類未踏の「7本」を手に入れた。
「去年のGPファイナルは、3カ月間練習して、7本すべてクリーンに降りられたのは数回だけという状況でした。だからまだ新しい要素への自信が確実に持てていないまま試合で挑んだんです。でも今年は、週に1回は7本ともパーフェクトの滑りをできる日があり、今回の試合でこそ記録を達成できるという自信がありました」
'24年は回転不足判定に泣かされたが、今回は、確かな手応えとジャッジへの期待を胸に、得点を待つ。表示されたフリーの点は238.24点で、自らが持つ世界記録を10点近く更新した。
「今年は本当に4回転に自信がつきました。誰にでも調子の良い日、悪い日はあります。それでも毎日、4回転を7本入れたフリーの曲かけ練習を繰り返しました。その繰り返しのお陰で、6種類の4回転それぞれの、ここが最適なポイントという感覚をつかめました」
フリーの最後は、本来なら、足をクロスさせて立って右腕を上げる振り付け。しかし思わず、両腕を胸元から左右にバッと開き、同時に右足で氷をダンッと踏んだ。それは羽生結弦の『SEIMEI』のフィニッシュポーズだった。
「あの瞬間、自分の中からすごく力強い感情が湧いてきて、急にユヅ(羽生)の真似をしちゃいました。でも必然のことだったと思います。僕はユヅを心から尊敬していて、僕にとっての一番の刺激です。だから自分のスケート人生で最高の演技をできたと思った瞬間に、あのポーズを取ったのは自然なことでした」
実際に、ノービスだった'18-'19シーズンには、『SEIMEI』を真似した和風の衣装で試合に出たこともあるほどの羽生ファンだ。
「ユヅは世界で独自の地位を築き、誰も彼を超えることはできないと思います。ただ自分が、ユヅが現役時代にいたレベルまで到達できたということで、大きな解放感があったんです。彼は記録に挑戦し、スコアを塗り替え続け、完璧なスケートを追求していました。僕のスケートへの思いも、まさに同じなのだと感じました」
もはやミラノ・コルティナ五輪に向けて独走態勢。金メダルに最も近い存在として、何を考えるのか。
「金メダルを取れるかどうかは、すべて自分次第。でもプレッシャーがあるからこそ、練習ですべてのことに完璧な一貫性をもたせようと取り組むんです。そうすれば結果を心配するのではなく、鍛えてきたことを信頼して、自然にその場に立つだけで良いですから」
GPファイナル後には、「4回転アクセル+4回転アクセル」を成功させる練習動画をSNSにアップ。『4回転の神』はどこを目指しているのか。
「5回転ジャンプは準備中です。ある程度できる状態で、惜しいところまでは来ています。オリンピック後にしっかり練習して、観客の前で決めたいです。種類ですか? サルコウ、トウループ、ルッツ、アクセルかな」
「いきなり5回転アクセル?」と驚くと「なぜダメなの?」と返す。冗談なのかと思うと、ちょっと真剣な顔に戻って、続ける。
「僕はできる限り自分を追い込みたい。本当の自分は何者なのかを知りたいんです。僕は完璧主義者だから、技術面も創造性も芸術面もすべてを向上させて改善して……。世界に限界があるのかということを知りたいのです」
彼の目に映るのは、オリンピックの金メダルだけではなく、もっと先にある未知の世界。あくなき探究心が、21歳の若者を突き動かしていく。
イリア・マリニンIlia Malinin
2004年12月2日生、米バージニア州出身。'22年、世界ジュニア選手権で金メダル。同年には史上初めて4回転アクセルを成功。現在、GPファイナルは3連覇、世界選手権は2連覇中。174cm。
この連載の記事を読む
記事


