#1124
巻頭特集

記事を
ブックマークする

「興奮と感謝が確かに伝わってきた」世紀の『ONシリーズ』で長嶋茂雄が“2つの握手”に込めた想いとは?「普段から恐れ多くて…」《鹿取義隆、仁志敏久の回想》 

2025/07/26
26年ぶりに「3」を背負い、対するは盟友でありライバル。大一番を前に勝利への熱意を表にしない指揮官だったが、勝負の分水嶺となった第5戦後に思いの丈を右手に込めた。不動の二塁手と投手コーチが世紀のシリーズの内幕を明かす。(原題:[巨人から見たONシリーズ]2000 燃え盛った内なる炎)

 燃える男・長嶋茂雄は、その内面の熱さとは対照的に身内への感情表現は案外、淡泊だったという。

「シーズン中は手を出したら……」

 そう言って鹿取義隆は、唐突に右手を差し出してきた。鹿取は巨人、西武と渡り歩いた右横手投げの元名リリーバーだ。

 鹿取の意図がわからずまごついていると「手を出してください」と催促される。

 言われた通りにしたら撫でるように手を触られた。

「こんな感じ」

 意外だった。鹿取は1999年、2000年と長嶋茂雄の第二次政権下で投手コーチを務めた。勝ったときは真っ先に歓喜を分け合ったが、長嶋の握手はタッチに近い感じだったという。

「いろんな人と握手しなきゃいけないから忙しいんでしょ。ただ、このときは……」

 鹿取が再び手を差し出す。こちらがすかさず応じると、今度は軽く手を握られた。つまり、正真正銘の握手だ。

「キュッて。びっくりしましたね。2年間コーチを務めて初めてのことでしたから。それも2000年のシリーズの第5戦でしょ。最後の最後ですよ」

 特に強く握られたというわけでもない。だが鹿取にとっては、それが長嶋との最大の思い出なのだという。

鹿取義隆 Hideki Sugiyama
鹿取義隆 Hideki Sugiyama

 開幕前から空前の盛り上がりを見せた「ON対決」

 巨人とダイエーがぶつかった世紀末決戦、2000年の日本シリーズは、今にして思えば、過剰なくらい「演出」が効いていた。

 巨人は前年オフに大型補強を敢行した。FAでダイエーの工藤公康と、広島の江藤智を獲得。さらに阪神を自由契約となったダレル・メイを日本に呼び戻した。また、この年から長嶋は26年ぶりに現役時代に背負っていた栄光の背番号3を付ける。それだけで物語になるのは長嶋ゆえだ。

全ての写真を見る -1枚-
特製トートバッグ付き!

「雑誌+年額プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています

photograph by KYODO

0

0

0

この連載の記事を読む

もっと見る
関連
記事