9月10日。5万人を超える大観衆が詰めかけたドジャースタジアム。背番号18をロサンゼルスの夕刻の日差しが照らす。ドジャースにとっては地区優勝に向けた大事な時期。しかも、相手のカブスの先発は今永昇太。そして、大谷翔平と鈴木誠也を含めて17年ぶりに日本人選手4人が同時出場するという一戦。これ以上ない舞台が用意された復帰戦で、いつものルーティンがマウンドに帰ってきた。
「期間の空いた登板だったので、やっぱりこう、いつも通りとは行きませんでした。なるべく落ち着いた気持ちで試合に入れるように、と」
山本由伸はベンチから足を踏み出すとき、常に理想の投球内容をイメージしている。マウンドまでの距離は心を整える時間に使う。課題を達成するための要素をひとつずつ確認しながら、決して急ぐことはない。オリックス時代から変わらない儀式だ。ロジンバッグを手に取り、ピッチャーズプレートの一塁側を、軸足である右足で2度、3度とならしながら、心にスイッチを入れ、投球練習に入る。メジャーでは3カ月もの間見られなかったルーティンが、勝負の秋についに戻ってきた。
想像以上に山本の体を蝕んだ、メジャーの過酷な環境。
悪夢に襲われたのは6月15日。マウンドへ向かう様子がいつもと違った。右上腕を何度も触りながら、時には右腕を上げて揺らしていた。今季14度目の登板は2回28球、8人目の打者を打ち取ったところで緊急降板。上腕三頭筋の違和感から精密検査を受け、右肩の腱板損傷が判明した。それまで6月は3試合で防御率0.60、被打率も下がり、メジャー初年度での二桁勝利へ向けて手応えを掴み始めた矢先に、投手生命にかかわる不測の事態は起きた。
「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています