NBA歴代最多18回目の優勝を達成したセルティックス。チームを率いたのは就任2季目の若き指揮官だった。柔軟な発想で新たなアイデアを注入し続ける35歳は、選手たちにポジティブなマインドをいかにもたらしたのか。(原題:[NBA制覇に導いた指揮官]成功を呼ぶ「変人」のコーチング)
「まだだ!」
NBAファイナル第5戦終盤のタイムアウト中、ボストン・セルティックスのヘッドコーチ、ジョー・マズーラは、そう言ってアシスタントコーチの1人を一喝した。
ジェイソン・テイタムが2本連続でレイアップを決め、セルティックスのリードが24点に広がった直後で、TDガーデンを埋めたファンは史上18回目の優勝へのカウントダウンで盛り上がっていた。そのアシスタントコーチも試合後にコート上で行われるセレモニーの段取りに思いを馳せて、スタンドにいる妻の姿を探し始めていたのだ。それを見たマズーラは「まだ気を緩めてはだめだ」と怒鳴ったのだった。
「勝利に近づけば近づくほど、敗戦に近づいている」
優勝から数日経って、ESPNのザック・ロウのポッドキャストでその話をしたマズーラは、「今から振り返ると彼に悪いことをしたと思うけれど、あのときはキレてしまった」と明かしている。
怒ったのには理由があった。マズーラがシーズンを通してチームに説いてきたモットーに反するからだ。
「勝利に近づけば近づくほど、それは敗戦に近づいているときだ」
勝ったと思って気を緩めたら、その瞬間に隙をつかれて流れを持っていかれてしまう。マズーラが好きな格闘技のUFCでも見たことがある状況だった。
セルティックスはこのモットーのもと、開幕から11勝2敗の好スタートを切っても、レギュラーシーズンでリーグ首位の64勝18敗という成績をあげても、プレイオフの最初の3ラウンドを12勝2敗で駆け抜けても、NBAファイナルで初戦から3連勝して優勝に王手をかけても、決して浮かれることはなかった。
特製トートバッグ付き!
「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています
photograph by Getty Images