野球人として頂点を極め、アメリカンドリームを実現したはずの男が、いまでも夢を追い続けている。その夢を育む場所は、大阪府堺市の新日鉄堺グラウンド。周囲を工場に囲まれ、煙突から溶鉱炉の煙が立ち昇る、ささやかな野球場——。才能をもてあましていた英雄が、立派なエースへと成長を遂げたこの場所には、どんなカタチの夢が転がっていたのだろうか?(初出:Number600号 このグラウンドで夢を見つけた 野茂英雄の初任給。)
大阪府堺市。新日鉄堺野球グラウンド。
野茂英雄の原点を求めて訪れた三月某日。日もとっぷり暮れて1℃と冷え込む中、工場群に囲まれたこの球場に、アルバイトを終えたNOMOベースボールクラブ(NBC)のメンバーが続々と集まってくる。
どこかのドームの照明に比べれば、裸電球にも等しい明るさの下、バックネット前で数名がキャッチボールを続けている。まったく照明のない外野でもダッシュを繰り返す影が仄(ほの)見える。十名ほどがバッティング練習に励む室内練習場も、冷え込みは表と変わらなかった。
「チームは一度崩壊すると思ってます。それからですよ、本当の勝負は」
口から発せられる厳しい言葉とは裏腹に、監督清水信英の選手を見つめる目は温かい。
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NOMOベースボールクラブは、主にアマチュア野球の普及発展に貢献することを目的として設立された非営利活動法人である。所属する選手たちは、昼問はアルバイトで月十万から十五万円の生活費を稼ぎ、夜と週末の練習に汗してプロ野球選手への夢を追っている。
この活動によって、野茂英雄の持つ財力と人脈と名声のすべてが一番良い形で生かされている。
このような活動を興すための出資ができる個人はかなり限られるだろう。メジャーリーガーの中でもトップグループを走り続けて十年目を迎える野茂には、三十代半ばにしてその資金を用意することができた。
だが、金があれば誰にでもできるというものではない。
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photograph by Ichisei Hiramatsu