本田圭佑の隣には、いつも遠藤保仁がいた。
フリーキックの場面になればどちらからともなくセットし、どちらからともなく声をかける。お互いに視線を壁とゴールキーパーから外すことはない。短い“作戦会議”の後、そのキックは放たれる。
あのときもそうだった。2010年南アフリカワールドカップ、グループリーグ第3戦デンマーク戦―。
開催地ルステンブルクは標高1500mの高地にあり、気圧が低いためボールがよく伸びた。加えてパネルの数を減らして真球に近づけた公式球ジャブラニは軌道が読みにくく「GK泣かせのボール」という評判。グループリーグ突破を懸けた一戦で、あの直接フリーキック2連発は生まれた。
38歳になった遠藤は、ガンバ大阪の中心を担い続けている。2月24日、名古屋グランパスとのJ 1開幕戦ではサイドからパスを引き出してのコントロールショットで今季初ゴールを決めた。一流の技と駆け引きが錆びつくことはない。
デンマーク戦の記憶。インタビューの主旨を伝えると、彼はいたずらっぽく笑った。
「いずれ自分が引退したときには、ニュースなんかでデンマーク戦の映像が真っ先に使われるんでしょうね。僕のなかでは単なる1試合にしかすぎないですけど」
もう7年半も前になる日本のワールドカップ史上に残る名シーン。遠藤は「あの日」に立ち戻り、ゆっくりと回想を始めた。
南アフリカにたどり着いた岡田ジャパンは反転攻勢に出ていた。
壮行試合の韓国戦で完敗を喫するなど停滞感に包まれていたなか、岡田武史監督は1トップに本田を置く新布陣に打って出て初戦のカメルーン戦を1─0で勝利した。2戦目のオランダ戦には敗れたものの、デンマークと並んで1勝1敗の勝ち点3。得失点差で1点上回っている状況であった。
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