今年のWBCのハイライトとも言える場面の直前。「代走・周東」のコールを聞いた加藤秀隆は、教え子が切り札として起用され、思わず体が震えたという。
周東佑京が在籍時の東農大二高で監督を務め、現在同校の校長を務める加藤にとって周東の第一印象は不安が募るものだった。
「本当に華奢だったんですよ。バットを振るというよりも、“バットに体が振られている”という印象でした」
出会いは中3の周東が練習体験会に来た時だ。勧誘をしたわけではなく自ら志望して参加していた痩身の少年に、加藤が実家を尋ねると、高崎市の学校まで通学に1時間以上かかる太田市だと言う。戦力になるか否かよりも「部活動を2年半続けられるのかと思いました」と振り返る。
だが入学してまもなく「たとえ活躍しなかったとしても、忘れられない生徒だったことでしょう」と語る出来事が起こる。
両腕を疲労骨折したのだ。体がまだできていないにもかかわらず全体練習で目いっぱいに動き、自主練習を怠らなかったゆえの負傷だった。
「頑張りすぎて怪我しちゃう選手ってそう多くはいません。周東はずっと自らのやるべきことを見つけて取り組んでいました」
自主練習も異質だった。周東の入学する2年前の夏に甲子園出場を果たしたこともあり、意識の高い選手たちが集まっていたが、それでも高校生の自主練習といえばフリー打撃やティー打撃、ノックを受けての守備練習といったところだ。しかし周東はショートゴロを打つ練習やセーフティーバントをサード前に転がす練習、バットを振ってから一塁まで駆け抜ける練習にひたすら取り組んでいた。
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photograph by 加藤氏提供