米移籍後最長となる8回を1失点で投げ終えても、メッツ千賀滉大は、ニコリともせず、一塁側ダッグアウトへ歩を進めた。7月5日の敵地ダイヤモンドバックス戦。今季最多タイとなる12奪三振の快投を演じても、降板時は1点ビハインドだった。笑顔で戻るメンタリティーはない。そんなプロ意識に同僚が応えた。9回2死、「あと1球」から同点に追い付き、さらに1点を勝ち越し、千賀に劇的な7勝目が転がり込んだ。
「最高でした。こういうふうに勝って行けるチームだというのを改めて思いました」
デビュー戦での初白星をはじめ、開幕後、地元ニューヨークで宝刀「お化けフォーク」の威力は、アッという間に浸透した。英語で「ゴースト」と訳され、本拠地シティフィールドでは、奪三振のたびに巨大スクリーンにお化けのイラストが躍るようになった。
だが、データ解析が細分化され、たとえ初対決でも球種や配球などの情報収集が可能な現在、同じパターンで通用するほど甘い世界ではない。2ストライク後のフォークを見逃され、カウントを悪くして四球が増加し、甘いコースを痛打されるケースが徐々に増え始めた。
「脱フォーク」ではない。ただ、千賀はフォークだけに依存しない投球術も兼ね備えていた。ソフトバンク時代、育成枠から日本のエースに成長したように、レベルアップする際の「引き出し」は数多く持っていた。前半戦最終登板となった5日は、両軍無得点で迎えた4回、一気にアクセルを踏んだ。
新人王争いのライバルとなりそうな3番コービン・キャロルに対し、最速159kmの速球のみならず、時速153kmの超高速カットボールを投げ込むなど、フォークに頼ることなく、メリハリを付けて全球種を操った。
「そういうふうにできる日はできますし、そうじゃないときは打たれる。ローテーションで回っていくためには試合の流れを読みながらやらなくちゃいけないと思います」
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