ラグビーW杯フランス大会の開幕まであと50日と目前に迫った今、日本代表選手たちが胸に秘める思いとは――。新進気鋭の司令塔はケガを乗り越え、先達の助言を聞き入れ、さらにスケールアップしている。
W杯絶望――。最悪のシナリオが脳裏をかすめた。
ラグビーW杯フランス大会の開幕を約半年後に控えた2023年2月26日、日本代表スタンドオフの李承信は、偶発的な“衝突事故”に見舞われた。
リーグワン中盤戦の第9節。3季目のコベルコ神戸スティーラーズ(神戸S)で副将も務める22歳は、タックル後、突然ピッチにうずくまった。激痛に悶えていた。
「相手の下にタックルにいったら、味方のヒザが右目に入りました」
相手は前年度王者の埼玉ワイルドナイツ。トイメンは、日本代表で先発10番を競う6学年上の松田力也。神戸Sのリーダー陣として、'22年に代表デビューしたばかりの新参として実力の提示が求められる試合で、眼窩底骨折という重傷を負った。
「前の試合で静岡ブルーレヴズに良い形で勝って、チームのパフォーマンスも上がってきてこれから、という状況だったんですが……。大事な試合でチームに貢献できませんでした。不甲斐なかったです」
前王者を倒して4季ぶりのリーグ優勝へ邁進する。日本代表として9月開幕のW杯に初出場する。そんな青写真の輪郭が、突如として不鮮明になった。
眼窩底骨折の治癒は、1カ月から半年といわれる。診察結果を聞くまでは不安が影のようにつきまとった。
軽症を願わずにいられなかった。
「10カ月くらい離脱するといわれたら心が折れていたかもしれません。でも、手術後2、3週間で復帰できる、と分かって」
不幸中の、幸いだった。
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photograph by Kiichi Matsumoto