批判をも歓迎し、女房役と討論して、後輩からも学ぶ――。「マッド・マックス」の異名を持つ血気盛んな右腕は、数ある名誉を手にしながらも、新たな進化を恐れない。メッツでの優勝を目指して、ただ前だけを見ている。
「マッド・マックス」
気性の激しさと負けず嫌いな性格から、マックス・シャーザーはいつの間にかそう呼ばれるようになった。
マッドな逸話は枚挙にいとまがない。
ブルペンで叫びながら投げる。降板を告げた監督との喧嘩や、審判とのいざこざは日常茶飯事。試合がない日、大学の卒業式会場となったスタジアムに入り込み、スタッフの制止を振り切って、卒業生や親の前で投球練習を始めた――などの珍エピソードも多い。一度スイッチが入ると周りが見えなくなり、誰にも止められない。
だが、マウンドでは激しさよりも軽妙さ、いや、巧妙さが際立つ。その理由は、彼のユニークな投球フォームにある。
シャーザーは先発投手には珍しいスリークォーター気味のフォームから、平均94マイル(約151km)のフォーシームを柱に、スライダー、チェンジアップ、カーブ、カットボールの4つの変化球を投げる。
おかしな投球フォームだと批判されたこともあったが、本人は「自分には理に適っている」と一蹴する。
この5つの球種のリリースポイントはほぼ同じ。これはメジャーで活躍する多くの投手に共通することだが、同じ軌道で向かってきたゾーンぎりぎりの球種を判別するのは、打者にとって至難の業だ。
「大学時代にすべての球種を同じ腕の振り、リリースポイントで投げることを意識し、ごく自然に身についた。キャッチボールをする時のことを考えてみろよ。同じフォームで投げるだろう? 球種が変わってもフォームは同じだ。もちろん握りは違うけれど、速球を投げる時の腕の振りと思考回路で、変化球を投げればいいだけだ」
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photograph by Nanae Suzuki