取材の日、トレバー・バウアーが最初に興味を示したのはカメラだった。
この日、カメラマンはデジタルではなくフィルムで撮影していた。最近では珍しい。バウアーは質問したり、「フィルムだとフレーミングの設定により集中しなきゃいけないよね」などと初対面のカメラマンに話しかける。
カメラの機種にまで興味を持つアスリートは少ない。しかし、この好奇心が成功の原動力である。バウアーの成長を手助けしてきた関係者はこう証言する。
「メジャーリーグどころか、ダブルA以上の選手でトレバーより運動神経が悪い選手はいないだろう。プロ野球選手の身体能力ではないんだ」
ではなぜ、2020年にサイ・ヤング賞を獲得するまでに至ったのか。その源は、人並外れた好奇心と行動力だった。
'11年ドラフトの1巡目・全体3位でダイヤモンドバックスに指名されたバウアーは、'12年にメジャーデビューを果たした。同年暮れにトレードで入団したインディアンスでは、'13年は1勝2敗に終わったが、体の痛みに悩まされていたという。
「鼠径部、腰、それに上腕。なぜ痛みが出たかというと、無理な動きをしていたからだったんだ。僕はティム・リンスカム('08、'09年サイ・ヤング賞)に憧れていて、彼のフォームを真似していたんだけど、それがトラブルの原因だった」
リンスカム。身長180cm、しかも華奢。なびく長髪で見た目は投手というよりミュージシャンのようだったが、投球フォームはダイナミックで、ハイキック、そして踏み出すストライドが広く、バウアーはあれほど魅力的なフォームを身につけた投手を見たことがなく、憧れの存在となった。
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