運命のダート転向から1年。オープンにすら届かなかった馬が、中東にその名を轟かせた。次は凱旋門賞か、米国最高峰か。それとも――。豪脚が駆ける道は誰も知らない景色へ続く。
「ヒアカムズ、ウシュバッ、テッソーロ!」
ドバイワールドカップ(WC)デー、メイダン競馬場のボルテージが最高潮に達したのは最後の直線半ば、場内実況がウシュバテソーロの大外強襲を伝えた瞬間だった。
全天候型(タペタ)馬場の開催だった'11年ヴィクトワールピサの勝利はあったが、'15年に馬場がダートに回帰して以降、再び日本馬が勝てていなかった中東の頂、ドバイWC。今年の日本勢は質量ともに史上最強布陣といえた。1カ月前に隣国サウジアラビアで歴史的な勝利を挙げたパンサラッサを筆頭としたサウジCからの転戦組が5頭、そこに昨年のジャパンC覇者ヴェラアズールと川崎記念組のウシュバテソーロ、テーオーケインズを加えた8頭の大攻勢だった。「どの日本馬が勝つのか」という楽観論もあれば「今年も返り討ちに遭う」という悲観論もあった。
「逃げる2頭(パンサラッサとリモース)がやり合って、速くなるのかな、と。作戦はありましたけど、最後はジョッキーに任せるだけでした」
表彰台の真ん中でカップを掲げた了徳寺健二ホールディングス副社長の広瀬祥吾氏が振り返る。スタート直後、1周目のゴール過ぎは大外枠からハナを奪いにいくパンサラッサの吉田豊騎手に対し、内で抵抗する他馬のジョッキーから激しい声が聞こえた。速く厳しい流れの中、4角先頭ベンドゥーグの外から直線早々にアルジールスが出る。人気を集めていた昨年覇者カントリーグラマーなどが脱落していく中、すべての馬を飲み込んだのが、空撮映像で画面からただ1頭、最後方で消えていたウシュバテソーロだった。
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