アーセナルのホームゲーム開始1時間ほど前。ハードコアな地元サポーターたちが、エミレーツ・スタジアム近くのガード下にたむろしている。建設地にかつて存在した道の名称から「アシュバートン・アーミー」と呼ばれる軍団は、そこで赤い発煙筒に火を着けて練り歩く。応援旗を振り、声を揃えて歌いながら。その歌詞では、リバプールとトッテナムのホームで完結を見た往年のリーグ優勝ドラマが語られる。血気盛んな彼らの表情からは、是が非でも通算14回目となる今季優勝を見届けんとする決意が伝わってくる。
実現すれば、クラブ史上最高レベルの成果の一つにして、最大級の「嬉しい誤算」だ。昨年4月のアーセナルは、優勝争いとは縁のないまま、結果的に5位で終わるシーズンの終盤を戦っていた。巷では、チームとしてのキャラクターと、指揮官としてのミケル・アルテタに再び疑問の目が向けられていた。ところが今季が幕を開けると、スリルと興奮に満ちた回答が突きつけられた。2月にマンチェスター・シティに敗れ(1-3)、開幕前からの優勝候補筆頭格に得失点差で一旦、首位の座を譲りはした。だが、アルテタ体制4シーズン目のアーセナルは即座に立ち直り、チームの核を担う若手も貴重なベテランも、優勝争いをリードするに相応しいパフォーマンスを見せ続けている。
グアルディオラから得たノウハウ
21歳のブカヨ・サカが、右サイドで背後のベン・ホワイトに攻守両面でサポートされながら相手ゴールを脅かす様子は、チームの倫理的なあり方と戦術的なアイデンティティを象徴している。逆サイドのウイングを疾走するガブリエウ・マルチネッリも、オレクサンドル・ジンチェンコによる援護を確信している。昨季までのシティ左SBは、古巣の助監督だったアルテタがペップ・グアルディオラから得たノウハウを活用している事実を、中盤中央に入る「偽SB」として体現してもいる。
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