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[ドキュメント(2) vs.ロシア]神も見た夜――証言:中山雅史「フジテレビ視聴率66%の内幕」

2022/07/01
悲願のW杯初勝利と、驚異の視聴率をもたらしたロシア戦。それはドーハの悲劇から続く3人のテレビマンたちと34歳のベテラン選手の、それぞれの戦いの結実でもあった。メディア環境が一変した2022年、神が祝福した90分を振り返る。

 2001年12月10日、フジテレビの編成制作局長・亀山千広の右手には大きなものがかかっていた。東京・紀尾井町にある日本民間放送連盟の一室、そこはサッカー日韓W杯の放送権を決める場であった。

 民放に与えられた16試合のうち、どの局がどの試合を中継するか、その選択順を抽選で決める。選択肢は複数あったが、どの局も絶対的に欲しいカードは一つだった。グループリーグ第2戦の日本対ロシア。日曜日の午後8時半キックオフ、高視聴率必至の黄金カードを巡って、4つの放送局が静かに火花を散らしていた。

《当時は視聴率で日テレさんの後を追いかけていたので、編成制作局長としては社内の起爆剤になるようなものが欲しかった。個人的にも、第1選択権を引けるか引けないかで天国と地獄だなと思っていました》

 亀山は制作プロデューサーとして「あすなろ白書」「ロングバケーション」「踊る大捜査線」など数々のヒットドラマを手がけた。ドラマの仕掛け人としてフジテレビ黄金期を築いた人物の一人だったが、この日ばかりは自らがドラマの主人公になる必要に迫られていた。

 全体の2番目で抽選することになった亀山は用意された箱に右手を差し入れた。

《3つの封筒をすべて触ってから1つを選ぼうと思っていたんですが、最初から手に引っかかってくるのがあったんです。大勢の人が見ていたし、あんまり長いこと手を入れているのもなあ……と》

 前の晩から寝付けなかった。この日は自局の朝番組の占いでラッキーアイテムとされていた「ホワイトシチュー」をわざわざ銀座まで行って食べてきた。ジャケットの下には日本代表カラーのブルーのシャツを着ていた。考えられることは全てやった。だから、亀山は妙に手に吸い付いてくるその封筒を引き上げることにした。

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photograph by Takeshi Masaki/AFLO

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