勝負の世界は勝ったものこそが強い――。学生長距離界で無双の強さを誇る駒澤大学の田澤廉が、幼少期から言い聞かされてきた父の教えである。生まれ育った青森で走っている頃から勝負強さは変わらない。
2015年4月、駒大のOBでもある青森山田高の河野仁志監督は、八戸東運動公園で中学3年生の全力疾走に心を奪われた。フォームは前傾姿勢できれいとは言えなかったが、底知れぬ強さを感じ取った。
「初めて見た1500mのレースは前半から突っ込んで、後半には中学校時代に競り合っていたライバルをぐんと引き離したんです。いま駒澤で見せている走りと根底は同じ。荒削りでしたが、ガンガン攻めていく姿勢にぐっと惹かれました」
春の八戸で衝撃を受けて以来、河野監督は中学生の田澤がエントリーしたレースには、どこへでも足を運んだ。同年7月に3000mで自己ベストの8分50秒09を出し、初めて全国中学生大会の標準記録('15年当時、8分59秒00)をクリアした瞬間も目撃した。脱帽したのは競り合う相手がいないなか、単独走でぐんぐんペースを上げた走りだ。ますます惚れ込んだ。それでも、地元の取り決めで、直接勧誘できるのは中学校3年の10月以降。それまではスタンドから熱視線を送り、視察に来ていることを本人にアピールするしかない。
「必死に『欲しいオーラ』を出していました。その熱意が通じたんだと思います」
全国高校駅伝常連の青森山田高に入学してきた15歳の田澤は、あらゆる面で規格外だった。初日の練習から600m7本のインターバル走を3年生たちと一緒にさらりとこなす。試合だけではなく、練習でも強さは際立った。気がつけば、1年生ながら20人足らずの少数精鋭の陸上部を足で引っ張る存在に。物怖じしない性格で臆することなくレースに臨み、本番で外すことはあまりなかった。
「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています