2019年、Jリーグの主役は間違いなくこの男だった。チームを15年ぶりの優勝に導き、得点王とMVPに。ケガに悩まされ、J2への期限付き移籍も経験した27歳の韋駄天は、いかにして壁を突き破ったのか。(Number995号掲載)
成り上がりならぬ駆け上がり。
右ひざ手術による長期リハビリ、キレが戻らずに出場機会に恵まれなかった日々、J2への武者修行……ずっと前のことではなく、すべてここ5年以内の話。
23(ニッサン)を背番号とする“ハマのGT-R”こと仲川輝人は、とびっきりのスピードで'19年シーズンを駆け抜けた。横浜F・マリノスを15年ぶりのリーグ制覇に導き、15ゴールを挙げて得点王とリーグMVPを獲得した。日本代表にも初選出され、先のEAFF E-1選手権でデビューを飾っている。
振り返ることなく前へ、前へ――。優勝を決めてから1カ月、新シーズンへのチューンアップのためにも急加速で駆け上がってきたその車轍を眺めようとする彼がいた。
「プロで5年しかやっていないですけど、うまくいかないことのほうが大半でした。それでも腐らないことが大事だなって思えたし、あらためて自分はサッカーが一番好きなんだなって思えました。そして努力した結果MVPまでたどり着けたというのは凄く自信にもなりました」
うまくいかなかったから今がある。
専修大4年時に右ひざを手術し、チームに完全合流するには1年目の8月まで待たなければならなかった。シーズン前のキャンプ中はきついリハビリメニューをこなす一方で、選手がいなくなったお風呂場で湯をかけながら患部を一人でマッサージしている姿をスタッフに何度も目撃されている。
「願掛けみたいなもので、ひざが良くなるようにって、ずっとさすっていましたね。ケガをして入団して、自分の体との対話というのはずっとやってきたつもりです」
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photograph by Toshiya Kondo