ぎりぎりで掴み、満身創痍で挑んだ33年ぶりの箱根路で、アンカーは満面の笑みを浮かべてゴールへと飛び込んだ。その後、4連覇を達成した青学大の出発点を追った。(初出:Number992号<名門大学の原点を訪ねて>2009年青山学院大学「『気分は優勝』の最下位ゴール」)
まるで優勝したかのようなゴールシーンだった。2009年の箱根駅伝。33年ぶりに出場した青山学院大学のアンカー宇野純也は、フィニッシュテープの向こう側に待つ仲間の姿を認めると、誇らしげに10人の汗が染み込んだ襷を握りしめた。
「都心に向かって走っていくので、どんどん応援も増えてくるんです。他の駅伝とは比べものにならないぐらい沿道の人がすごくて、気持ちよく走れました」
走者が笑顔なら、アンカーを待つチームメイトも笑顔。宇野は両手を高々と突き上げてテープを切った。
この大会は23チーム参加で青学大は22位。途中棄権の城西大学を除くと完走チーム中最下位という結果だった。だが、この場面だけを見ると、最下位チームのゴールシーンとはにわかに信じがたいだろう。
「みんなで最後は楽しく笑ってゴールしようと決めていたんですけど、称賛と批判が半分半分でしたね。奥さん(原晋監督夫人の美穂さん)からは『笑っている暇があったら走れ』と突っ込まれたし、いまだに『お前は優勝したのか』って言われます。気分は優勝でしたって言い返しますが(笑)」
当人の宇野は、当時をこう懐かしむ。
この33年前、青学大は途中棄権に終わっていた。脱水症状に陥った10区の杉崎孝がフィニッシュ地点までわずか150mを残して意識を失ったのだ。そしてそれ以来、箱根路から遠のいていた。大会後、杉崎に会った宇野は、感謝の言葉をかけられた。
「杉崎さんも途中棄権したことがずっと心残りだったそうで、僕らの襷がきちっとつながったことで、自分の中でもすっきりしたという話をされていました」
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photograph by Satoshi Wada