試合描写などロクに出てこない。それでいて、とんでもなく面白い野球本だ。
球団の困惑をよそにファンの支持を得た情熱のヤクルト芸術家、宗派を超えて団結する「カープ坊や」ならぬ「カープ坊主」、飲酒運転で人生を狂わせた元プロ野球選手にして元町長、などなど。業もクセも強い人物たちが野球とともに七転八倒する姿を、ときに熱く、ときに飄々と描いている。かつて「地球の裏側にもう一つの野球があった」とボブ・ホーナーは言ったが、飛行機なんか乗らなくったって“もう一つの野球”はここにある。
そう、この短編集は徹底して球場の外の物語を紡いでいる。今をときめく鈴木誠也も、村瀬氏にかかれば「町屋の誠也」で、下町の喫茶店のせがれだ。広島東洋カープの四番打者も、巣鴨で孤軍奮闘する謎のヤクルト弁当屋も、皆平等。だからこそ「野球っていいよな」という感慨が王道のスポーツ・ノンフィクションよりも滋味深く去来する。
特製トートバッグ付き!
「雑誌プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています
photograph by Sports Graphic Number