書店で本書の目次を観て、「あった」と思った。石原慎太郎の「死のヨット・レース脱出記」だ。高校時代に読んで強く印象に残っている。堀江謙一さんが小型ヨットで太平洋単独横断航海に成功した同じ年の秋に起こった外洋ヨット・レースの遭難事故。早慶の2艇が遭難し、行方不明、死者11人を出した。ヨットのニュースの明暗は、セットで忘れられない。このレースに参加した作家の、死の瀬戸際からの生還記だ。嵐に翻弄されるヨット上の圧倒的な即物的描写。凄さの源泉は作者自身を含めたすべてを客観的に眺める視点だろう。石原艇長は、クルーと十分に闘ったかを確かめ合い、「そうか、よし。それじゃ引き返そう。エンジンをかけろ」と命じる。自然と対峙するスポーツでのリーダーの重要さは登山と同じなのだ。集められた19編中の白眉の一篇。
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