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ベテランの証明BACK NUMBER
「箱根で活躍した選手がマラソンで失敗するのは…」大迫傑35歳がケニアで語った“選手にとって邪魔なプライド”とは?《シカゴマラソンへ》
posted2026/10/09 18:01
昨年、34歳でマラソン日本記録を更新した大迫傑
text by

涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui
photograph by
Kanta Nakamura
ここではインタビューで特に印象的だった3つのパートを一問一答形式で紹介したい。まず1つ目は「絢爛」だ。「豪華絢爛」などの熟語を知っている人も多いだろう。《枯淡》とは真逆の単語をなぜ選んだのか。そこには大迫の内面的な変化が表現されていた。
――「絢爛」という単語は《枯淡》とは180度違い、エネルギーに満ちあふれている様子を想起させます。過去の自分自身をイメージした言葉のセレクトですか?
「そうですね。確かに、アメリカに渡った2014年、2015年頃は日本の陸上界に対するアンチテーゼというか、リベンジ、誰かに負けたくない、記録を出したいというモチベーションに支えられていました。認めさせたい、というか」
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――今は「他人に認められたい」という気持ちから離れてきた?
「完全にそういうマインドから離れたわけではなく、行き来しますが、そこから離れていられる時間(状態)が長くなったという感じです。なんというか、以前は周りがワシャワシャしていたから、努力をして自分自身にベクトルを向けていたんですが、今は周りの環境に関わらず、静かな状態でも自分にベクトルを向けられるようになった、という感じです。
それは年々少しずつ変わってきていて、意識すべきは周囲や他人ではないとナチュラルに無視できるようになったのはここ3、4年、つまりパリ五輪前後からですね」
―ー大迫傑が一番華やかだった時期、「絢爛」期はいつでしょう?
「今が精神的にも肉体的にも一番充実していますが、外のものを獲りに行こうとしていたというか、『何か達成しないと自分は何者でもなくなってしまう』と飢えていたという意味では、アメリカに渡ってマラソンを始めた頃(2017年ごろ)から東京五輪前後かなと思います。華やかだったというよりも、自分が華やかでありたかった時期ですね。
僕は周りから褒められたり、チヤホヤされたりするのは得意ではないので、客観的な目標や他者からのイメージを上手く裏切っていくモチベーションや承認欲求を含め、自分自身の中で肉付きやエネルギーが豊かにあったという意味での『絢爛』だと思っています」
次に印象に残ったのが、「若拙」から「逍遥」に至るやりとり。「若拙」は中国の『老子』に由来する言葉で、真に優れた技や知恵を持つ人は、それをひけらかさないため、一見すると下手や不器用に見えるという意味。「逍遥」は中国の荘子の言葉とされており、世間の喧騒から離れ、のんびりと歩き回ったり、楽しんだりするという意味だ。
――「若拙」という単語、自分なりに考えると過去の成功体験に囚われない、という文脈なのかなと思いました。
「そうですね。マラソンで失敗する選手は、過去の成功体験やプライドに囚われ、アップデートできていない場合が多い。身体も変わり、世界トップレベルのタイムも変わっていく中で過去に執着するのはダサい。毎年、最善や最適解を探してアップデートしていく姿勢が速く走るために不可欠です。
だからこそ、走り始めた頃のような『速く走るにはどうすればいいか』というピュアでシンプルな探求心を持ち続けたいんです。余分なプライドを持ってしまうと、本質が見えなくなります。箱根駅伝などで派手に活躍した選手がマラソンで失敗する場合、プライドが先行して本質が見えていないからだと思います。過去の実績ややり方を『守りたい』という気持ちが先行すると、本当に大事な話ができなかったり、ロジカルに進めば辿りつけるはずの場所を見失ったりしてしまいますね」
――「逍遥」は目的もなく遊ぶというニュアンスがある言葉です。これはいまおっしゃったアップデートの仕方に関係していますか?

