酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
腰の重かったNPBが「ピッチクロック」導入へ大急ぎ…「ケガのリスク」を訴え反対した選手会も方針転換した“本当の理由”とは
text by

広尾晃Kou Hiroo
photograph byHideki Sugiyama
posted2026/10/04 17:00
メジャーリーグやWBCでおなじみの「ピッチクロック」。日本球界もいよいよ導入に向けての動きが進んでいる
・投手は、ボールを受け取ってから、走者がいない場合は15秒、走者がいる場合は18秒以内に投球動作に入らなければならない。これに違反した場合、自動的に1ボールが追加される。
・打者は、制限時間の8秒前までに打席に入り、打つ準備を完了していなければならない。これに違反した場合、自動的に1ストライクが追加される。
・走者がいるときに、投手が牽制や投手板を外した場合、1打者に対して2度まで制限時間はリセットされる。
ADVERTISEMENT
アメリカの野球界では2016年ころから大学野球、独立リーグ、マイナーリーグなどで実験的にピッチクロックを導入していた。その結果「時短」効果が十分にみられたことから、MLBも導入に踏み切った。
MLBの試合時間はどれだけ減った?
ピッチクロックの効果は劇的だった。
〈導入前後のMLB30球団、レギュラーシーズン全試合の平均時間の推移〉
2021年 3時間11分
2022年 3時間7分
——ピッチクロック導入——
2023年 2時間42分
2024年 2時間39分
2025年 2時間41分
2026年 2時間35分 ※9月23日現在
試合時間が30分近くも短縮されたのだ。
筆者は今年、サンディエゴでパドレスの主催試合6試合を観戦したが、あっという間に試合が進行して終盤になった印象だ。ピッチクロックは、観客にはほとんどストレスにはならない。むしろ試合がサクサク進んで心地よい感じだ。
当初、NPB側の反応は鈍かった。
2023年に導入の議論があったが、NPB事務局は「過去5年間の投球間隔は、MLBの定めている秒数をほとんどクリアしている」とし、まずは打者交代における時間短縮が妥当と判断。伊原事務局長(当時)は「ピッチクロックの試合時間短縮というのは手段です。手段を目的にしてしまうと間違えてしまう」と話した。
選手会が示した「ケガのリスク」
さらに日本プロ野球選手会は2024年6月に、「何のためにやるかっていうのが、はっきりしない。(投球)間隔が短くなって、十分整えないまま投げてけがにつながる可能性も検証もできていない」として、反対の意向を示した。
ちなみにNPBの公式戦の平均試合時間は以下の通り。
2021年 3時間11分
2022年 3時間14分
2023年 3時間13分
2024年 3時間07分
2025年 3時間11分
2026年 3時間9分 ※9月24日現在
NPBはピッチクロックを単に「時短の手段」だと考えていた。選手会は導入による「けがのリスク」を訴えた。しかしこの問題の本質はそこにはなかった。

