猛牛のささやきBACK NUMBER
「僕も“神った”んやで」現役引退のオリックス・平野佳寿が今も忘れられない鈴木誠也の一発「失敗しても一歩、前に踏み出せた」伝えた守護神の矜持
text by

米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byJIJI PRESS
posted2026/10/05 11:03
引退セレモニーでスピーチする平野。21年間の現役生活に別れを告げた
そんなスピーチの中でも、「あれは言いたかった」と特別な想いを込めたのは、子供たちへのメッセージだった。
「これからプロ野球を目指すであろう子供たち。僕は今までいっぱい失敗をしてきました。球場に行くのも、マウンドに立つのも、嫌だなと思うことはたくさんありました。でも僕がここまでやってこられたのは、最後、一歩前に踏み出す勇気だけがあったからかなと思います。いっぱい失敗してください。その分、いっぱい練習してください」
そこに込めたのは、「成功ばかりじゃない。失敗して学ぶことのほうが多いんだよ」という、自身がプロの世界で身をもって感じてきた教訓だ。
「神ってる」を生んだ“一投”
ADVERTISEMENT
21年間の中で、平野の記憶に一番強く残っている失敗は、「今カブスにいる鈴木(誠也)君にサヨナラホームランを打たれて、『神ってる』って言われたあの試合ですかね」。
2016年6月18日にマツダスタジアムで行われた広島戦。クローザーの平野は、3-1と2点リードの9回裏にマウンドに上がるが、1死一、三塁のピンチを招き、鈴木にサヨナラ本塁打を打たれた。
その前日の試合でも、鈴木は延長12回裏に比嘉幹貴(現・オリックス投手コーチ)からサヨナラ本塁打を放っており、2日連続のサヨナラ弾となった。その試合後、当時の広島の緒方孝市監督が鈴木の活躍に対し、『神ってる』というワードを発した。その翌日にも鈴木は、当時オリックスにいた山崎福也(日本ハム)から3日連続となる決勝本塁打を放った。
広島は、そのカードから勢いづいて25年ぶりのリーグ優勝へと突き進み、『神ってる』はその年の流行語大賞を受賞。その言葉がテレビで紹介されるたび、オリックスの“背番号16”が鈴木に本塁打を打たれる屈辱的なシーンが繰り返し全国に流された。
大事なのは「やられた後」
だが平野にとっては、それはただの失敗ではなかった。
「あそこで鈴木君に打たれて、そのあと僕、何十試合か(26試合)ずっと、1点も取られなかったんですよ。めっちゃよかったんです、そのシーズン。だから、ああいう失敗があって、めちゃめちゃ嫌やったんですけど、そのあと実は僕、良かったんやで、って。あの一発で僕も『神ったんやで』って(笑)。何がどう転ぶかわからない。スピーチでも言いましたけど、失敗しても、一歩前に踏み出せたから、そういうことができたのかなと思っています。あのまま沈んでいた可能性もあったけど、そうじゃなくて、そこから盛り返せたので」
今では比嘉と、あの連続サヨナラ被弾も笑い話にできるようになった。比嘉はこう明かす。
「あの時は、私も平野もすごくへこんでいましたけど、今となってはね、鈴木誠也選手があれだけの選手になってくれたんで、『そりゃ打たれるわ、あんないいバッターに』って話しています(笑)」


