甲子園の風BACK NUMBER
「もう1回、自信を持て」一度スクイズ失敗でも智弁和歌山“元ドラ1監督”中谷采配ズバリ…逆転劇の伏線「うまいこといっている」甲子園68勝の名将恩師も絶賛
text by

間淳Jun Aida
photograph byHideki Sugiyama
posted2026/08/23 17:03
夏の甲子園を制し、智弁和歌山ナインから胴上げされる中谷仁監督
相手がバントシフトを敷き、三塁はフォースプレーとなるため、送りバントが難しい場面。大役を任された松本は、1球でバントを成功させた。中谷監督は「松本のバントで同点まで見える状況になりました。プレッシャーがかかる非常に厳しいところで、よく決めてくれました。魂のこもった素晴らしいバントでした」と称えた。
松本の犠打で1死二、三塁とチャンスを拡大し、中谷監督は同点の道筋を描いていた。
初球に動く。
ADVERTISEMENT
7番・川原一将に出したサインはスクイズ。しかし、ファウルボールが健大高崎の捕手・大岩翔斗に直撃。大岩の治療に時間を要することから、両チームの選手は一度ベンチに下がった。
なぜ「再度スクイズ」に自信があったか
試合再開後の1球目、健大高崎の左腕・北田莉玖が投じた速球は低めに外れる。この時、中谷監督は相手ベンチをずっと観察していた。そして、川原に再びスクイズのサインを出した。川原は打球の勢いを殺して投手と捕手の間に転がし、三塁ランナーの山田がホームイン。同点に追いついた。さらに、8番・山下晃平が空振り三振に倒れた際のワイルドピッチで勝ち越した。
中谷監督にはスクイズが決まる自信があった。その理由を、こう説明した。
「再開後の1球目を見た時、スクイズがマークされていないと感じました。うちの打線に強打のイメージを持ってもらい、相手は打ってくると読んだのだと思います。相手捕手とベンチのアイコンタクト、ベンチからのジェスチャーやサインの出し方を見て、勝負をかけました」
大岩の治療で中断中、中谷監督は川原にこう伝えていた。
「もう1回、スクイズの可能性があるぞ。失敗しても構わないから自信を持て」
チームメートからは「大丈夫だから」と声をかけられた川原は、スクイズ成功のイメージを膨らませた。
「1回失敗したので、引きずらずに切り替えました。打席に行く前に覚悟を決めました。打ち勝つだけではない智弁和歌山の攻撃を見せられてよかったです」
「強打」のイメージが生んだ、絶妙の揺さぶり
智弁和歌山は準決勝で、大会ナンバーワンと評される横浜・織田を打ち崩して決勝に駒を進めた。準々決勝でも仙台育英から18安打11得点を記録した。準決勝までの4試合でスクイズは一度もなく、チャンスでもバントではなく強攻策で得点する場面も目立った。
強打のイメージに加えて、智弁和歌山が見せた序盤の攻撃もスクイズへの警戒を弱める伏線となった。

