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「日本が世界で戦うためのチームを作る」セブンズ強化に邁進するラグビーのレジェンド・吉田義人が語った7人制ラグビーの魅力とロス五輪へのロードマップ

posted2026/07/02 11:00

 
「日本が世界で戦うためのチームを作る」セブンズ強化に邁進するラグビーのレジェンド・吉田義人が語った7人制ラグビーの魅力とロス五輪へのロードマップ<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

日本のセブンズ強化の一端を担うべく、サムライセブンの監督を務める吉田氏

text by

生島淳

生島淳Jun Ikushima

PROFILE

photograph by

Kiichi Matsumoto

 現役時代は明治大学ラグビー部主将、日本代表、世界選抜など輝かしい実績を持つ吉田義人はいま、(株)フジタの支援のもと「サムライセブン」の監督を務めつつ、2028年のロス五輪出場を目標に日本の7人制ラグビー(=セブンズ)の強化に奔走している。吉田はなぜセブンズに惹かれ力を注ぐのか。ラグビーのレジェンドがその魅力と価値、現状の課題を情熱的に語った。

「あ、俺、セブンズ好きだし、向いてるわ」

 吉田義人がそう思ったのは、1988年に行われた香港セブンズでのことだった。

「19歳で、初めて日本代表のジャージを着ました。それが7人制ラグビーの香港セブンズでのことだったんです。歴史ある大会で雰囲気も素晴らしいし、オーストラリアや西サモアの世界のトッププレーヤーとも対戦できて、本当に素晴らしい体験でした」

 なにより、15人制のラグビーよりもボールがたくさん回ってくるのが楽しかった。

「当時の15人制のウィングだと、ボールに触れるのは1試合に数回ということも珍しくなくて(笑)。セブンズはスペースが広いし、とにかくボールが回ってきて、走り回れる。こりゃ楽しいなと。自分がボールを持って、相手の15人全員をかわしてトライを取りたい。ラグビーを始めた時の、そんな初心を思い出させてくれたのが7人制ラグビーでした」

「15人全員をかわす」という思いが、いかにも吉田らしい。1990年度の大学選手権決勝、明治大学のキャプテンとして、早稲田相手に何人ものタックルを外して逆転トライを挙げた原動力は、このメンタリティにあったのだろう。

 吉田は日本のセブンズ草創期の功労者でもある。

「1993年、スコットランドで第1回のラグビーワールドカップセブンズが開催されました。私は日本代表のキャプテンとして参加して、最後の試合で地元スコットランドに勝ったんです。世界のトップ10入り。当時、7人制において、決して世界は遠くありませんでした」

 7人制ラグビーは、1883年にスコットランドで生まれた。日本では1930年に初めての大会が開催されている。15人制と同じグラウンドの広さで行われ、試合時間は前後半7分ずつ(10分の場合もある)。「え、それだけなの? 楽なんじゃないの?」と思われがちだが、さにあらず。ひとりで埋めるスペースが広いこと、短い試合時間のなかで全力疾走を求められることも多く、身体的負荷は高い。また、1日に何試合もプレーしなければならず、リカバリーも重要だ。

なぜ7人制なのか?

 吉田は2003年に現役を引退したが、15人制でプレーしつつも、7人制への思いをずっと抱えてきた。では、指導者として7人制にのめりこむきっかけは何だったのだろうか?

「遡れば、2009年が私にとって人生の転換点だったんです。まず、母校・明治大学の監督を拝命しました。前のシーズン、明治は対抗戦で6位に終わり、大学選手権出場を逃していたんです。明治にとってはあってはならないことで、明治大学学長から直々に復活を託されました。そしてこの年、2019年にラグビーワールドカップが日本で開催されることが決まり、さらには2016年のリオデジャネイロ・オリンピックで7人制ラグビーが正式競技として採用されることが決まったんです」

 明治大学の監督として14年ぶりの対抗戦制覇を果たすなど、指導者としても確固たる実績を残した吉田が2014年に「サムライセブン」を立ち上げた背景には、一人のトップアスリートとしての激しい「渇望」があった。

「やっぱり、7人制が好きだったんです。しかもオリンピックの舞台に立つチャンスがやってきた。その機会を逃してはいけない。日本が世界で戦うためのチームを作る。それがサムライセブン設立の目的でした」

 吉田にとって「オリンピック」は重要な意味を持つ。

「ラグビーワールドカップにも出た。世界選抜にも選ばれた。でも、オリンピックに出たかった。私と親交のある競泳の鈴木大地さん、レスリングの佐藤満さんといった金メダリストたちはオリンピアンとしての誇りがあり、つながりがあります。でも、私にはない」

 セブンズがオリンピックの正式種目となったとき、吉田は確信した。自分がラグビー界、あるいはスポーツ界に恩返しができるとすれば、それは世界で勝てるセブンズの選手を、自らの手で育成することだと。

「吉田義人が新しいことに取り組み始めるということで、メディアのみなさんにも大きく取り上げていただきました。本気でオリンピックを目指したいという面々が集まって来て、中にはプロ野球で戦力外通告を受けた選手や、陸上競技、バスケットボールからの転向者もいました。それが始まりでした」

 ゼロからの立ち上げ。7人制ラグビーの認知度はまだ低かったが、徐々に支援者たちも増えてきた。中でも、ジャージの中心にロゴが描かれているフジタは草創期からサムライセブンを人事面、そして経済面でも支援し続けてきた。

「サムライセブンの現在のメンバーは18人で、スタッフを含めて6人がフジタさんに社員としてお世話になっています。練習は朝3時間ほど行っており、会社のご理解をいただき、火曜から木曜の午前中は練習を優先し、練習後に出社する形にさせてもらっています」

 いまや15人制のトップレベルではプロ契約の選手が大半を占める中、吉田はあえて「働きながらラグビーをプレーすること」の価値に徹底的にこだわる。そこには、彼の指導者としての深い「矜持」が隠されている。

「自分も明治を卒業してから伊勢丹さんでお世話になり、試合の翌日も売場に立ってました(笑)。社会人としての基礎を学べた貴重な時期だったと感謝しています。いま、15人制でプロ契約の選手が増えたのは時代の流れです。進化した15人制ラグビーでは、選手たちはケガの予防も含めて体も鍛えなければならないし、練習のメニューも増えています。ただ私としては、選手が働きながらプレーし、その経験を社会に還元するという価値を守っていきたい。弱い自分と向き合いながら本物の自信と強さを身につけ、ただひたむきにプレーして観る者を感動させる。そういった人間を育てていきたい。そうすれば、現役を引退してからも人から愛され、尊敬され、応援される。これこそが、スポーツが持つ本当の教育的意義だと思うんです。フジタさんにご協力いただきながら、この価値を大切にしていきたいです」

強化へ向けての課題

 ただし、日本の7人制ラグビーには解決しなければならない課題も多いと吉田は語る。

「そもそも大会の数が少なく、練習の成果を発揮する機会が少ない。その意味で大会の制度を整えることも必要です。一方、国民スポーツ大会の成人男子では、2013年の東京大会から15人制に代わって7人制が採用されました。いまの日本は少子化が進んで、高校の15人制のチームが少なくなっていますが、7人制ならば人数が少ない分チームづくりの障壁が下がります。セブンズに特化したチームが出てきてもいいじゃないですか」

 日本では、もともと15人制をプレーしていた選手たちが7人制を掛け持ちするケースが一般的だ。

「海外では、ラグビーはラグビーでも、15人制と7人制は違う競技という認識になっています。日本でもそうなっていくのが望ましい。小学生、中学生の時期にはタグラグビーや、フラッグフットボール、様々なラグビーを楽しみつつ自分の適性を考え、その後にどちらかを選べる環境を作ることが理想ですね」

 そのためのインフラを作りたい。それが吉田の思いだ。今年から「関東プレミアセブンズシリーズ」を立ち上げ、チェアマンとして大会を運営している。基盤を作ることで、7人制ラグビーが世界へとつながっていくと信じている。

 そして、自らが立ち上げたサムライセブンが日本で最高のチームになる。それが大きな目標だ。

 かつて、明治大学の偉大なる恩師・北島忠治監督から学んだ「本物であること、本流を歩むこと、本筋を貫くこと」の誇り。小細工を嫌い、どんな理不尽な壁が立ち塞がろうとも「前へ」の精神で正面から突き破ってきた。

「まずは7月12日。7人制ラグビーの全国大会、ジャパンセブンズが行われます。日本一を決める戦いです。最大のライバルは日本ラグビーフットボール協会のセブンズ・デベロップメント・スコッド(SDS)です」

 SDSはオリンピック、ワールドカップセブンズといった国際大会で戦うメンバーを育てていくチームで、昨年の大会ではサムライセブンを33対5で破っている。

「SDSもサムライセブンも、2028年のロサンゼルス・オリンピックを目指すという意味で志は一緒です。だからこそ、なんとしても勝ちたい相手ですし、切磋琢磨しながら世界に近づいて行けたらいいと思っています」

 5月24日に行われた関東プレミアセブンズシリーズ第3節の「江戸川セブンズ」で、サムライセブンは4試合を戦ってすべて完封勝ち。メンバーには、フィジー代表で「セブンズの神様」と呼ばれたワイサレ・セレヴィの息子、ワイサレ・セレヴィ・ジュニアがいる。

 そして今年、明治大学から日本一メンバーの仲間航太がセブンス専門を宣言して加入した。仲間はこれからの日本を背負って立つ逸材だ。

 彼らのほかにも、今のメンバーには吉田の想いを体現できる力のある選手が揃っている。

「面白いラグビーを展開して、セブンズの魅力をお伝えしていきたい。そのためにも、ジャパンセブンズで魂を込めたプレーを表現したいです」

 日本のセブンズの未来、そしてそこから羽ばたく「人財」の未来をかけたレジェンドの命懸けの疾走は、いま、ここから再び加速する。

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