ボクシングPRESSBACK NUMBER
井上尚弥戦の2カ月前に急逝…中谷潤人は“おじいちゃん”の元へ駆けつけた「会いに行かなくちゃ、と」井上戦のトランクスに“ごはん”の文字…なぜ?
posted2026/06/04 11:00
井上尚弥を相手にプロ初黒星を喫した中谷潤人。トランクスに記されていた「コミダ」の意味とは
text by

宮田有理子Yuriko Miyata
photograph by
Hiroaki Finito Yamaguchi
井上尚弥と中谷潤人。二人が思いを尽くした至高の一戦は、1カ月が過ぎても余韻が残る。5万5000人動員と約100万件視聴を記録したメガファイトは、その背景、それぞれの心情、どこを切り取ってもストーリーがあふれ出すような戦いだった。
「Comida」の謎
挑戦者・中谷潤人がまとったコスチュームひとつにも、物語があった。
目を留めた人はどれくらいいただろう。
ADVERTISEMENT
トランクスの背中側、ベルトラインいっぱいにデザインされた“Comida”の文字。
コミダ――スペイン語で「ごはん」を意味する言葉は、恩人ロドルフォ・エルナンデスさんへのオマージュ。「世界チャンピオンになる」という誓い一つを携え、15歳で単身、アメリカ・ロサンゼルスへやってきた「ジュント」と、その純真を信じ慈しんだ「グランパ(おじいちゃん)」が紡いだ日々を映し出す言葉だ。
ルディ・エルナンデス・トレーナーの実父であるロドルフォさんは、長男ルディと三男ヘナロ(WBA・WBC世界スーパーフェザー級王者)にボクシングの筋道をつけ、アメリカ西海岸のボクシング界に、エルナンデス家の礎を作った人だ。ヘナロとともに世界を転戦し、2009年に長谷川穂積のWBC世界バンタム級王座に挑むネストール・ロチャ(米国)の日本・神戸遠征にも同行した。夢に向かう若者たちを愛し続け、80の齢を過ぎてもなおジムにいて、スピード・ボールを軽快に打ち鳴らし、どのボクサーにも稽古をつけた。
中谷少年を支えた“おじいちゃん”
縁あってエルナンデス門下に入った、痩せっぽちの日本の少年に対しても同じだった。自宅の一室、孫ロッキーの部屋に寝床を借りて暮らし始めたジュントのために、多忙なルディに代わり、ロドルフォさんはかいがいしく動いた。
「いつも口笛ふいて。僕の気持ちをわかってくれて。おじいちゃんがいなかったら、耐えられなかったかもしれません。ジムにはほぼいつも、おじいちゃんが連れて行ってくれました」と中谷は懐かしそうに振り返る。
言葉は通じなくても、少年の切実さは言葉以上に伝わったのだろう。ロードワーク、スパーリング、ジムワークで必死に食らいつき、毎日疲れ果てているジュントを見て、グランパは洗濯も買って出た。

