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「音のない世界で一人で走っている」49歳で全日本ロード初の女性ウィナーとなった難聴のライダー・高杉奈緒子のレース人生
text by

遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2026/06/03 17:00
女性ライダーとして初の快挙を成し遂げた高杉
彼女が乗るRC250Rはグランプリへの登竜門でもある「レッドブル・ルーキーズ・カップ」で使用されているマシンだが、すでに生産終了となっており、パーツ入手は困難になっている。そのためKTMに依頼し、レッドブル・ルーキーズ・カップで使用された中古パーツなどを日本へ送ってもらいながら参戦を続けている。
今シーズンも開幕戦の1週間前になって、ようやく手配していたエンジンが日本へ到着。決勝では好スタートを切ってトップグループに加わったものの、準備不足でセッティングを煮詰め切れず、後半に失速して5位。しかし、その悔しさを晴らす形で今大会の優勝をつかみ取った。
犬や猫と暮らす理由
高杉はパナソニック社員として働きながら、レース活動を続けてきた。現在は愛猫と暮らしており、以前は犬も飼っていたという。
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その理由について、彼女はこう説明する。
「家のインターホンが鳴っても私は聞こえません。でも犬は音に反応して吠えるし、猫は音に反応して歩いていく。だから、『あ、誰か来たのかな』ってわかるんです。テレビや映画はわからないです。特にアニメはまったくわからないので、字幕付きで見ています」
この日、撤収作業中に優勝決定を知らされた高杉のもとには、次々にレース仲間やファンが祝福に訪れた。
「バイクに乗っている人は、みんな音を情報として使っています。でも自分にはそれがわからない。そもそも“音が聞こえる世界”がどんなものなのかも知らないんです。もし聞こえたら、どこまで速くなれるんだろうとか……。でも、音が聞こえない私でもここまでできた、ということをぜひ知ってほしい。みんなに『自分もできる』って思ってほしいし、障害を持った人たちにも、もっと元気を持ってもらえたらと思っています」
15年間、高杉奈緒子を支えてきたメカニックの川原英実さんは、「彼女がいつまで走りたいと思っているのかは聞いたことがないですけど、初優勝という目標を達成できたので、次はチャンピオンじゃないですかね」と、うれしそうに笑った。
高杉奈緒子は2戦を終え、堂々のランキング首位である。

