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「音のない世界で一人で走っている」49歳で全日本ロード初の女性ウィナーとなった難聴のライダー・高杉奈緒子のレース人生
text by

遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2026/06/03 17:00
女性ライダーとして初の快挙を成し遂げた高杉
音という情報がないため、スタート時のクラッチミートやシフト操作ではエンジンの振動が重要な情報源となる。さらにメーターパネルには、ある回転域に達するとシグナルが点灯する工夫を施してあり、「あ、光った」と思った瞬間にシフトアップしているという。
加えてハンドルやステップから伝わる路面の振動、そしてヘルメットのバイザー越しに見える景色と、チームから出されるサインボード。それだけが彼女の情報源だ。自分の視界の外にいるライバルの存在はまったくわからないため、抜かれる瞬間が「一番驚く」のだという。
そんな高杉の速さの秘訣は、コーナーリングスピードと立ち上がりの巧さ。ブレーキングの弱さを補ってバイクのパフォーマンスをしっかり引き出し、オートポリスのようなハイスピードサーキットでは存分に力を発揮する。
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取材中、高杉はまっすぐ僕を見つめながら会話を続けた。耳が聞こえないため、口の動きを読み取ってコミュニケーションを取っているのだ。
2歳のときに高熱によって聴力を失った。まだ物心がつく前であり、「生まれたときから」という本人の言葉も頷ける。
現在は補聴器を使用している。補聴器をつけている時は、「音に対してかすかに反応できる。会話のきっかけくらいにはなる」という。しかし、マシンに跨る際には補聴器を外すため、完全な無音の世界となる。
豊富なレース経験
高杉は1977年4月24日、大阪府生まれ。23歳になった2000年にミニバイクレースを始め、04年から本格的にロードレースに参戦した。
以来、ST600やJ-GP3にフル参戦しながら、鈴鹿8時間耐久ロードレースなどにも出場。15年にはKTM製の市販ロードレーサー「RC250R」を中古で購入し、20年には「TEAM NAOKO KTM」を立ち上げた。
そして今大会、通算3度目の表彰台獲得で悲願の初優勝を成し遂げた。現在49歳の高杉は、女性初の全日本ロード優勝という偉業だけでなく、21年に小室旭が記録した44歳での最年長優勝記録も更新した。

