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「これがA級棋士として最後の夜かも」なぜ4連敗から佐藤天彦は絶望から這い上がれたか…永瀬拓矢戦で示した“達人の域”への渇望とは
text by

大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph byShintaro Okawa,Keiji Ishikawa
posted2026/05/16 11:15
佐藤天彦に永瀬拓矢。将棋界のトップを走る棋士の思考は、すさまじいものがある
——あったような気がします。
「そういうマッチョな発言が実体化するのが永瀬戦なので、だからこそやりがいがある。永瀬さんは序・中盤はAIを用いた完璧な研究で押し込んでいくという、現代的にはオーソドックスなやり方ですよね。そういう意味では、現代将棋を体現する永瀬さんにどれだけのものが示せるかというテーマが自分の中にはありました。その回答が本局で用いた居飛車と振り飛車の両天秤で、相手に委ねました。当日の相手の出方次第でこちらが飛車を振るか振らないかを決めるのですが、難しいんですよね。40~50手目の局面が雁木対急戦なのか、雁木対矢倉なのか、それとも対抗形なのかわからない状況だと技術的にはもちろん、気持ちの持っていきようが難しい。結果的には振り飛車になりましたけど、うまく指して勝つことができた。そして、『面白い将棋』と言ってもらえるのはすごく嬉しかったです。実際に自分でもいい将棋が指せたという感覚はありますね。自力残留が決まったのはもちろん、1つ作品として大きなものができたという手応えもありました」
「めちゃくちゃ苦しかった」4連敗から掴んだ自力残留
——いろいろありながら、残留を決めました。振り返ってみて、どういう1年でしたか。
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「めちゃくちゃ苦しかったですよね(笑)。自分の気持ちが折れる瞬間はなかったですけど、4連敗スタートは客観的に見て、落ちても不思議ではなかった。だって6回戦の糸谷戦までに実質1勝もしていなかったので」
——ファンの方は、これから天彦さんがどういう将棋を指していくのか興味があると思います。今後のイメージはありますか?
「自分の究極の理想としては、自分が盤の前に座った瞬間の気持ちで将棋を指したい。例えばそこが旅館だったら、綺麗な庭園のお寺だったら、ヴェルサイユ宮殿だったら、それぞれの気持ちがあるわけじゃないですか。高ぶる自分の気持ちに応じて、自由に将棋を選択したいんですよね。それができれば本当に達人の域だと思うのですが、理想としてはそこに行きたい。ただ去年の段階でここまで叩かれて、そういう気持ちに今すぐにはなりづらいですね。自由を得るためには、居飛車を取り入れる必要があるというのが今の正直な気持ちです。盤の前に座った瞬間に『天彦は振り飛車で来るよな』と思われたら作戦を絞られてしまうので、現状では厳しい。居飛車が本命だけど、振り飛車もあるよねと思わせなければいけない。だからこそ、すべての戦法を指しこなせるようにならなければいけないと思っています」
——それは果てしない修羅の道ですね。

