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名人・藤井聡太23歳は“完璧な将棋”をあえて捨てているのか「天才は元に戻れないです」”面白い将棋”への変化と苦悩とは…佐藤天彦九段が推察
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大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph byKeiji Ishikawa
posted2026/05/16 11:13
2026年初頭は“二冠失冠”危機を乗り越えた藤井聡太六冠。佐藤天彦九段の目から見てどのように映るか
「終盤は序盤からの地続きであって、そこだけ独立しているわけではありません。序盤から自分の将棋が指せているという実感があった時のほうが、終盤も集中力が高く臨めると思うんです。藤井さん自身も『課題の解決ができていない』と言ってますけど、中長期なスパンで噛み合っていないとしたら、それが終盤戦に影響を及ぼしていると見るのが妥当かなと。
なぜこんなに長い話をするかというと、ミクロには語れないんです。藤井さんの中での揺らぎに加えて、対戦相手の個性や戦略などを重層的に語らないと、藤井さんの終盤のミスの増加というのは捉えきれないのではないかと思っています」
——藤井さんが再び「完璧な将棋を指そう」とやり方を戻すことは考えられるのでしょうか。
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「基本的には不可能だと思いますね。藤井さん自身が自分のことをどう見ているのかはわかりませんが、芸術家は歩みを止めずに前進していくものです。例えば僕の好きなモーツァルトの話ですけど、ある時まではBGM的に聴きやすい明るい曲調が多かったんですけど、進化して短調の暗めの曲を書くようになった。芸術家として踏み込んで、僕が思う絶望ってこんな感じなのかというものが含まれた構成が色濃くなっている。そういう世界に足を踏み入れた芸術家は、軽く聴ける曲調にまた戻しましょうとはならないし、できないと思うんですね」
モーツァルトと同じで天才棋士は“元には戻れない”
——では藤井さんは「面白い将棋」を求める以上は、頑張って現状を打破するしかないのでしょうか。
「そうですね。ただ当代一流の芸術家というのは、周りが育てるものでもあると個人的には思っているんです。藤井さんも人間ですから、周りが神童時代の完璧さを求めすぎたら、いかに偉大な精神の持ち主でも無駄に苦しむかもしれない。天才の苦悩を遠くから眺めるだけではなくて、見る側も参加することが芸術家を育てるという営為だと思う。それが本人の心の余裕を生むかもしれませんしね。結果だけを求めて無駄なプレッシャーをかけて、負のスパイラルに陥らせるのはよくないことなので。別に僕は藤井さんを応援しているわけではありませんが(笑)」〈つづきは下の【関連記事】へ〉

