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名人・藤井聡太23歳は“完璧な将棋”をあえて捨てているのか「天才は元に戻れないです」”面白い将棋”への変化と苦悩とは…佐藤天彦九段が推察
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大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph byKeiji Ishikawa
posted2026/05/16 11:13
2026年初頭は“二冠失冠”危機を乗り越えた藤井聡太六冠。佐藤天彦九段の目から見てどのように映るか
「増田さんは作戦選択のセンスがあります。例えば永瀬拓矢九段みたいに最新の研究の一番鋭いところをぶつけまくるわけではなくて、相手が予想していない『こんな指し方があったんだ』という作戦をぶつけるタイプです。それに加えて中盤の組み立てが巧みです。
第3局までは後手番が勝っているシリーズでしたよね。第1局は増田さんらしい将棋というか、藤井さんの角換わり志向に力戦調の出だしで、『どう組み立てますか?』と相手に問いを投げかけていた。中盤での増田さんの巧みさがよく出た1局でしたね。第2局も増田さんが相当押し込んでいましたけど、結果的には藤井さんが制しました。増田さんがはっきり作戦勝ちだったと思いますが、そこから藤井さんを倒し切るというのは大変なことです。第3局は増田さんがはっきり苦しかったと思いますが、終盤で逆転がありました」
藤井聡太は本当に“不調”だったのか
——棋王戦と並行して王将戦七番勝負が行われていて、こちらは1勝3敗で永瀬拓矢九段がリードしています(結果は4勝3敗で藤井王将が防衛)。2つのタイトル戦で崖っぷちに追い込まれている藤井さんの不調説も出ていますが、天彦さんはどう見ていますか?
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「これに関してはどうしても話が大きくなりがちですが、まずミクロな語り方をするとすれば、20歳前後の藤井さんの圧倒的な終盤力からすると、最近はミスが増えてきていると見えてもおかしくはない。ただマクロな語り方をすると、別のことが見えてくると思うんです。藤井さんは八冠を制覇してから、『面白い将棋を指したい』とコメントをするようになりましたよね」
——はい、確かによく見かけます。
「それまでは『完璧な将棋を指したい』とおっしゃっていたので、藤井さんの中に変化が生まれたのだと思います。完璧な将棋というのはAIとの整合性が大事なので、概念としてはわかりやすい。実際に藤井さんの終盤は、完璧に近いような内容だったと思うんです。それが八冠制覇というわかりやすい形で結実したので、藤井さんとしても次に行く時期かという考えがあったのではないかと推察します。それが『面白い将棋』です。ただその概念はAIに尋ねても示してくれません。面白い将棋となると、揺らぎを含めた指し方がしたいという気持ちにもなってくるのかなと思うんですよね。そういう時に、永瀬さんのようにAIのエビデンスで完璧に構成された序盤で押し込んでくる相手に、ちょっと気持ちの面でも噛み合わなくて結果が出づらくなっている面もあるのかもしれません」
八冠制覇で変化…「完璧」→「面白い」将棋へ
——序盤はそうかもしれませんが、例えば棋王戦第3局の終盤戦のように、以前の藤井さんならあまり考えられないミスも出ているように映りますが?

