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「判定勝ちは無理。もっと攻めろ!」中谷潤人と名参謀の“打倒イノウエ”幻プランはなぜ実現しなかった? 敗戦当日の深夜、トレーナーが明かした“誤算” 

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曹宇鉉

曹宇鉉Uhyon Cho

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photograph byHiroaki Finito Yamaguchi

posted2026/05/05 11:03

「判定勝ちは無理。もっと攻めろ!」中谷潤人と名参謀の“打倒イノウエ”幻プランはなぜ実現しなかった? 敗戦当日の深夜、トレーナーが明かした“誤算”<Number Web> photograph by Hiroaki Finito Yamaguchi

前に出た試合後半、井上尚弥のパンチを被弾する中谷潤人

 だが、ここでバッティングによる中断が入る。中谷が眉間をカットした。両者に与えられる若干のインターバルが、試合の流れを寸断する。それでも、8から10までのラウンドは中谷が取っているように見えた。

 残り2ラウンド。実際にジャッジがどう判断しているかはわからないが、手元でつけていたポイントを整理する。1、2、3、4、6、7ラウンドが井上。5、8、9、10ラウンドが中谷。96-94で井上がリード。残りを中谷が取ればドロー。もしひとつでもダウンを奪うことができれば、中谷の判定勝ちもあり得る。鼓動が早まるのを感じた。

11ラウンドで起きた、中谷の異変

 11ラウンド、井上の動きが変わった。右のショートのダブルが中谷の頭部を跳ね上げ、ガードの上からでも強いパンチを叩き込む。残り1分20秒。コンパクトで鋭い右アッパーを被弾した中谷の動きが一瞬、止まる。挙動がおかしい。左目をかばって、手が出なくなる。異変があったのは明らかだった。

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 はっきりと井上のラウンドになった。この時点で、中谷陣営が判定勝ちするプランは瓦解したように思えた。井上は試合後、中谷のペースとなった8、9、10ラウンドについて「ポイントは大丈夫と確認していた。自分のなかでは譲ってもいいラウンドだった」と、体力を温存する意図があったと振り返っている。これを額面通りに受け取るべきかどうかはわからない。だが、実際にその後の11ラウンドで勝負を決めた。この勝負強さと決定力には、感嘆するほかない。

 中谷は井上の右アッパーで眼窩底骨折を負っていた。その影響もあって12ラウンドは井上のリズムで進んだが、パンチの交換が名残惜しそうにも見えた。取材ノートに「井上116-112中谷」と書きつけた。美しい試合は終わった。だが、まだ確認しなければいけないことがあった。

策士ルディが明かした“たったひとつの誤算”

 日付が変わった5月3日の0時過ぎ。ロサンゼルスを拠点に活動するライターの宮田有理子氏の尽力で、ホテルに戻ってきたルディ・エルナンデスに話を聞くことができた。試合前に狙っていたファイトプランは実行できたのか。誤算があったとすれば、どの場面なのか。

「最初の3、4ラウンドまではイノウエの動きを観察していた。私たちがそのプランを立てた理由は、感触を掴むためだった。彼はとんでもなく速い。スピードをコントロールできるか見極める必要があった。あるいは、相手の動きを見て、それを利用できるか見極める必要があったんだ」

 つまり、最初の4ラウンドの戦略はうまくいっていた? と宮田氏が問いかけた。ルディは「Yes」と答えた。中谷の試合後のコメントと照合すると、待ちに徹した理由はふたつあった。ひとつは、井上に“学習”の機会を与えないこと。もうひとつは、中谷が井上を“学習”すること。ポイントを失うことは織り込み済みのプランだった。

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