ボクシングPRESSBACK NUMBER
那須川天心が敗者エストラーダの手を掲げ…記者の驚き「こんな姿は初めて」いったい何が変わった?「ずっと怒られていた」崖っぷちから“生還”するまで
text by

布施鋼治Koji Fuse
photograph bySusumu Nagao
posted2026/04/18 17:02
再起戦で“変貌”を遂げた那須川天心。元2階級制覇王者のエストラーダに9回終了時TKOで完勝した
陣営が同じ轍を踏むことはなかった。天心は4ラウンド後にスコアが読み上げられたときの心境を、こう吐露した。
「イヤなトラウマを思い返しそうになったけど、そこからが本当の勝負だなと思いました。前回の経験があったからこそ、乗り越えることができたと思います」
今回は精神的に動揺することはなかった。5ラウンド開始直後、エストラーダがいきなり距離を詰めてきても、迷うことなく冷静に対処していた。
葛西トレーナーが証言“心を折ったボディ”の威力
ADVERTISEMENT
思えば、拓真のアタックに対して迷いが生じたことが前戦の最大の敗因だったが、今回はどんなシチュエーションになろうと混乱は起きなかった。なぜか。展開がどうあれ、「これなら効かせられる」というパンチを打てる手応えを練習で掴んでいたからだ。
「それを試合でもちょっとずつ出せるようになってきた。それで自分の中で核となる自信が生まれたんだと思う」
中でも、最も目立っていたのはボディとアゴに打ち分けるアッパーやストレートだった。結果的にエストラーダの肋骨だけではなく、心を折ったのもボディへの攻撃だった。葛西トレーナーは「今日の試合は左のボディで終わらせたけど」と前置きしながら、その効果を力説した。
「あのボディは練習中に私も何度か落とされそうになった。胴にミットを巻いているけど、それでも倒されそうになりましたから」
それにしても、わずか5カ月でここまで変われるものなのか。今回の勝利の裏にある、天心の人知れぬ努力と、葛西トレーナーとの信頼関係に思いを馳せずにはいられない。「変わることができた理由」について、天心は葛西トレーナーの荒療治だと説明した。
「スパーをやっていてもずっと怒られるし、ずっと納得いかなかった。ライオンは子供を成長させるため、崖から突き落として這い上がってこいってやるじゃないですか。今回は試合の1週間前まで、ずっとそうされてきた感じがします。だから心も体もずっとボロボロの状態だった」
敗北を経て、天心は自らを徹底的に追い込んだ。「人って何かになりたかったら、狂気に走らないといけないときがあると思う」。崖っぷちから生還を果たした神童の心に狂気が宿った。それこそが、那須川天心の最大の変化だったのかもしれない。


