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那須川天心27歳の“異変”「口数が減って…今までなかった」じつはあった“キック出身ゆえの欠点”どう克服した? エストラーダの肋骨を折った完勝ウラ側
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渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2026/04/13 17:00
再起戦で強敵エストラーダを撃破した那須川天心(27歳)。ここまでの苦しみを物語るように、試合直後には感極まる場面もあった
“キック出身ゆえの欠点”を猛練習で克服
帝拳ジムの本田明彦会長は心を鬼にして那須川を崖に突き落とした側の人間だ。「今回、那須川に何を最も強調して伝えたのか」と問うと次のように返ってきた。
「それはもう気持ち。精神面。インファイトを集中的に練習したのは確か。でも、今までもできないわけじゃなかった。やらないだけの話で」
危機感を持っていたのは本田会長も同じだった。何かを変えずして那須川の覚醒はあり得ない。そう考えて新たに帝拳ジムOBの葛西裕一氏(GLOVES会長)をトレーナーに起用した。葛西トレーナーは若き日の那須川にボクシングを教えていた経験があり、元WBCスーパーバンタム級王者の西岡利晃ら世界王者を育てた実績もあった。
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また、本田会長は今回の試合を迎えるにあたり、初めて那須川のキックボクシング時代の試合映像を見て、キック関係者からいろいろな話を聞いたとも明かした。その結果、ボクシングとキックボクシングがいかに別物かを実感したという。もちろん違うことは分かっていたが、本田会長曰く「認識が甘かった」。その象徴がインファイトだった。
キックボクシングではボクシングのように頭を下げることはない。頭を下げればヒザや蹴りが飛んでくるからだ。だからキックで育ってきた那須川は本能的に頭を下げるような姿勢を取ることができない。そうした欠点を克服するため、「今回はとにかく徹底した」(本田会長)。それが那須川の言う「崖から落とされた」練習だったのだ。
那須川がエストラーダに積極的にインファイトを挑んだかといえばそうではない。右ジャブをこまめに突いてエストラーダの接近を許さず、上下にパンチを散らして理想的な距離で試合を運んだ。
インファイトのシーンは何度かあった。その際、那須川は「待ってました」とばかりに果敢に打ち合い、エストラーダのほうが下がって接近戦から身を引いた。那須川にはインファイトでも戦える自信があった。実際にその場面が来たらひるまずに勝負した。その結果、インファイトは最小限に抑えられ、理想の距離で戦い続けることができたのである。


