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「AIに操作される人には難しい話」藤井聡太が“序盤早々に評価値56%”でも…「そこが個性」「齟齬はありました」永瀬拓矢が明かす作戦の真相
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大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph byShintaro Okawa
posted2026/03/25 11:02
王将戦第6局の感想戦での永瀬拓矢九段
モバイル中継の代案を見ると、後手が8筋の歩を突っかけた手では代わりに△3五歩と突く手を示している。3筋をいじくってから8筋で歩を交換すれば、部分的に△3六歩▲同銀△4六飛という筋を見せることができるからだろう。
早い段階で期待勝率の差がついたことと、永瀬が△3五歩をどう見ているのか知りたくて、質問表にメモしてあった。そろそろ尋ねようとした時、永瀬のほうからまさにその話が出た。
「こちらが8六の歩を突いた局面で、ソフトは△3五歩のほうを最善と示します。でも深く調べていくと結局、評価値は落ち着いてくるというか、変わらない。だからソフトが△3五歩を最善と示しても、それは表面上のことで間違いです。AIに少し探索させたぐらいの表面上のレベルではなくて、私はもっと大きなスケールで勝負をしているんです」
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対局者だけにしかわからない話だろう。いや、もしかしたら一部の上位棋士にしか理解できないのでないか。
難しいと思う範囲や局面は私と藤井さんで異なる
永瀬は続けた。
「だから後手は、どれを選んでも点数上は苦しいんです。そのうえで、先手目線で局面を難しいと思えるかどうかなんですよね」
本局は「表面上」は差が開いて見えるが、永瀬の視点では拮抗しているのだ。
「AIの評価値とは関係なく、先手目線で考えて難しいと思ったから、後手番でこの作戦を採用しました。棋力が担保されていれば、逆を持って難しいと思った作戦は採用できるんですよ。ただソフトを使う側の棋力が担保されていないと、評価値を鵜呑みにして、その局面を難しいと思えない。私と藤井さんが共通してこの局面は指せるだろうと思った局面は、2人にとっては難しくないんですよ。まあ、難しいと思う範囲や局面は私と藤井さんでも異なってくるので、そこが個性になると思うんですけどね」
つまり本局の作戦は、ソフトの評価値に左右されない強者しか採用できないことになる。
なかなかシビアな話だが、これが人生を懸けて将棋に打ち込んでいる永瀬拓矢の思想なのだ。
後手側が認識しなければならない変化がかなり
採用した理由はわかった。では具体的に、後手にはどういうデメリットがあるのだろうか。

