第102回箱根駅伝(2026)BACK NUMBER

《黒田朝日だけじゃない》青木瑠郁、ヴィクター・キムタイ、塩出翔太、佐藤圭汰…記録ラッシュの箱根駅伝で記憶に残るランナーたち

posted2026/01/09 10:01

 
《黒田朝日だけじゃない》青木瑠郁、ヴィクター・キムタイ、塩出翔太、佐藤圭汰…記録ラッシュの箱根駅伝で記憶に残るランナーたち<Number Web> photograph by AFLO / Yuki Suenaga

左から青木瑠郁(國學院大學)、ヴィクター・キムタイ(城西大学)、塩出翔太(青山学院大学)、佐藤圭汰(駒澤大学)

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生島淳

生島淳Jun Ikushima

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AFLO / Yuki Suenaga

 第102回箱根駅伝は素晴らしい大会となった。

 青山学院大学が10時間37分34秒という、これまでの常識を覆す総合新記録を樹立。また4大学の5選手が区間記録を更新し、学生長距離界のレベルが上がっていることを証明した。そしてなにより、走りで個性を表現する選手たちが目立った大会でもあった。

 往路は見どころが満載だった。

 近年、1区では序盤に飛び出した選手が独走状態になることも珍しくなかったが、今回の1区は、序盤から高速かつ駆け引きが繰り広げられるレースが展開された。

 まず、集団を引っ張ったのは中央大学の藤田大智(3年)。前回の箱根駅伝では当落線上の選手だったが、10区を走って自信をつけた。3年生になってからめきめきと力をつけ、藤原正和監督が「エース格のひとりになるまで成長してくれました」と信頼を寄せる選手だ。

 藤田に課せられたのは高速レースに持ち込み、優勝候補の青学大を揺さぶること。この作戦が成功し、青学大は後退を余儀なくされた。

 実力を発揮したのは藤田だけではなかった。東洋大学の松井海斗(2年)が先頭に立つ時間帯もあった。また終盤に入ってからは、後方で待機していた國學院大學の青木瑠郁(4年)が集団から抜け出し、区間新記録をマークして鶴見中継所に飛び込んだ。

 そして2区では、城西大学のヴィクター・キムタイ(4年)と早稲田大学の主将・山口智規(4年)が圧巻の並走を見せた。キムタイは6位、山口は7位でたすきを受けたが、山口はすぐにキムタイに追いつき、肩を並べて前を追った。そのスピードは驚異的で、先行する國學院大を抜き、先頭の中大の背中を捉えるまで迫った。山口はレース後にこう明かした。

「10kmを少し過ぎたあたりで、ちょっとキツくなったので、キムタイに『ちょっとだけ引っ張ってくれないかな』と英語で話しました」

 昨年の春、箱根駅伝が終わってからオーストラリアでトレーニングを重ねたこともあって、山口は英語で話しかけることに苦はなかった。キムタイはそれに応え、ふたりでしばらく並走を続けたが、終盤の下り坂でスパート。山口は「僕も1km2分50秒のペースで行ってたんですが、キムタイが急にいなくなっちゃいました」と笑った。

 キムタイは中大を捉え、1時間05分09秒の区間新。山口も日本出身の選手としては、ただひとりの1時間5分台となる1時間05分47秒で走って、その実力を見せた。

区間記録に1秒と迫った1年生

 4区では早大の鈴木琉胤(1年)が素晴らしい箱根駅伝デビューを飾った。

「応援がすごかったです。そのせいか、10kmを29分くらいで行こうと思っていたところを28分ちょっとで通過して、自分でも『速っ』と思いました。それでも余裕があり、走る前に花田(勝彦)監督から『時計よりも自分の感覚を信じて走ろう』と言われていたので、ペースを上げるというよりも、下げないように意識して走りました」

 昨年4月、入学早々に取材で話を聞いた時から落ち着いた態度が印象的だったが、自分の状態を冷静に判断できる能力は貴重だ。鈴木は自身と対話を重ね、順位を2位に押し上げて小田原中継所に飛び込んだ。

 タイムは1時間00分01秒。この記録はイェゴン・ヴィンセント(当時・東京国際大学)が持つ区間記録にわずか1秒及ばなかっただけ。将来が楽しみな1年生が箱根駅伝にデビューした。

 そして5区では、青学大の黒田朝日(4年)が想像をはるかに超える1時間07分16秒の区間新記録をマークし、「シン・山の神」となって往路優勝。しかし、黒田にかわされた選手たちも素晴らしい走りを見せていた。

 城西大の斎藤将也(4年)は、黒田についていくことを早々に諦めた。

「黒田君と一緒にスタートしたんですけど、ついていったら間違いなく死んでいるんで(笑)。自分のペースで行くことにしました。黒田君は別格です」

 斎藤のタイムは1時間09分28秒で区間2位。並走しなかったのは賢明な判断だった。

 國學院大の高石樹(1年)は黒田に抜かれても精神的にダメージを受けることなく、最後まで走り切った。フィニッシュ地点直前では交差点を右に曲がるところを危うく直進しかけたが、1時間10分05秒、区間4位の好走だった。フィニッシュした後、高石はこう話した。

「曲がらずにまっすぐ行っちゃって……気づいて曲がりました。何も考えてなくてひたすら走っていまして。来年は2区希望ですけど、また5区なら次は間違えないです!」

 そして「山の名探偵」のニックネームが定着した早大の工藤慎作(3年)。一時は中大を抜いてトップに立ち、往路優勝を手中に収めたかに思われたが、後方から来た黒田の驚異的な走りにかわされた。

「直前になっても調子が上がり切らない状態でした。並ばれて抵抗できない状態ではあったのですが、やっぱり最後には足を動かさないといけなかったです」

 この悔しさが成長を促すはずだ。

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