第102回箱根駅伝(2026)BACK NUMBER
“鉄紺”のエース候補、東洋大学の松井海斗が1年目の蹉跌を乗り越えて証明する「ゲームチェンジャー」のポテンシャル
posted2025/12/19 10:01
10月の出雲駅伝1区でようやく駅伝デビューを果たした松井海斗
text by

藤井みさMisa Fujii
photograph by
Yuki Suenaga
「平地のゲームチェンジャーがいないところですね」
東洋大学の酒井俊幸監督は、上位校との差をこう表現した。
東洋大は5月の全日本大学駅伝選考会で、2007年以来18大会ぶりに本大会出場を逃した。箱根駅伝で21年連続のシード権獲得、さらに上位を目指すためには「ミスなく走る」ことは当然として、流れを変えるゲームチェンジャーの存在が不可欠となる。
この秋の駅伝シーズンで唯一の出場となった出雲駅伝では、4年生の出場はなく、3年生ひとり、2年生5人の布陣で臨んだ。酒井監督は「4年生の調子が今ひとつだったことと、3年生以下に経験を積ませたかった」と起用の狙いを語った。その中でも「将来の鉄紺のエース」と期待するのが、2年生の松井海斗だ。
松井は埼玉栄高時代、3年時に全国高校駅伝1区で2位となった。翌月の天皇盃全国都道府県対抗男子駅伝でも埼玉県代表として1区を走り、ここでも区間2位。高校トップレベルの実力者として、東洋大には1年目からの活躍を期待されて入学した。
2年目に発揮された実力
トラックシーズンは順調にレースにも出場していたが、8月のU20世界選手権男子5000mに日本代表として出場した後、ヘルニアと診断され、10月には内視鏡手術。大学に入って初めての駅伝シーズンでは走ることすらできない時期が続いた。
12月ごろからようやくリハビリを始め、リハビリの一環として山上りのトレーニングを行っていた。箱根駅伝エントリーメンバーの16人に入り、12月29日の区間エントリーでは5区に名前を連ねた。実際に行ける準備もしていたが、1月2日の往路当日にエントリー変更があり、同学年の宮崎優が山を上った。
今季は4月の日本学生陸上競技個人選手権男子5000mに出場すると、早稲田大学のルーキー鈴木琉胤との猛烈なスパート合戦を制して優勝し、復活を印象付けた。5月の全日本大学駅伝関東地区選考会では最終4組を任され、チーム内トップの28分29秒08で組9位。その後、夏合宿でもケガなくしっかりと練習を継続できた。
松井は実は高校時代も貧血や調子を崩すなどして、ひと夏を通して練習を行えたことがなかったという。この夏は初めてすべての練習をこなしきったが、「本当に苦しくて、もう合宿はやりたくないというレベルでした」と振り返る。はじめは20kmの距離にも抵抗があり、30km走を3分半で行うこともきついと感じていた。しかし練習を継続していくにつれ、徐々に距離に対する抵抗感がなくなってきた。


