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ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
長谷川穂積がズバリ指摘「これまでの相手と井上拓真ではレベルが違った」那須川天心に“打開策”はなかったのか?「キャリアの差が出たというしかない」
text by

渋谷淳Jun Shibuya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2025/12/02 17:03
井上拓真が那須川天心に判定で勝利したWBC世界バンタム級王座決定戦。元3階級制覇王者・長谷川穂積氏はこの一戦をどう見たのか
「これまでの選手と井上拓真ではレベルが違った」
ところが3回、拓真がプレッシャーを強めたことで流れが変わる。長谷川さんは那須川がやりにくさを覚えていると感じ取った。
「3回から拓真選手が前に出るプレッシャーを強めました。拓真選手は前に出る際、常に上体を動かして、手を動かして、プレッシャーをかけていく。ただ前に出るではなく、打ったあとは右にダッキングするとか、攻撃したあとのことも常に考えて動いていた。こうした動きに、天心選手はだんだんやりにくさを感じたと思います」
ここから徐々にキャリアの差が出ていった。引き出しの数の違いが露呈していった。
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「拓真選手のプレッシャーのかけ方が光ってました。天心選手はリーチが長く、スピードがある。だから対戦相手は距離を詰めたい。前に出てプレッシャーをかけたい。実際にこれまで天心選手と対戦してきた相手はみんなそうしてきました。でも、これまでの選手と拓真選手ではプレッシャーのかけ方が違った。レベルが違いました」
拓真は常に上体を動かして的を絞らせず、打ったあとにリターンをもらわないよう、打ち終わりのディフェンスも上手い。これだけでもやりにくいだろうが、長谷川さんは「一番大事なことは」と前置きして次のように続けた。
「拓真選手はプレッシャーをかけて、かけ切ったところでまだ手を出さない。ロープを背負わせるくらいのところまで詰めてもまだ手を出さない。ここから駆け引きするんです。天心選手の今までの相手は、プレッシャーをかけてパンチが届く距離まできたらすぐに手を出しました。するとそれに合わせて天心選手がパパパンと手を出したり、スッとサイドに回ったりする。打とうと思ったら天心選手はもうそこにいないから、相手はもう一度プレッシャーをかけ直す。この繰り返しで、気が付いたら天心選手が勝っているというパターンでした」
那須川は相手が「ここでパンチを出してくるな」というタイミングに合わせてカウンターを打ったり、サイドに回ったりする。相手の動きをよく読んでいるように見える。ところが拓真の場合は那須川が「来る」と思ったところで来ないのだ。那須川はタイミングが読めずに苦しんだことだろう。

