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[本拠地とする2チームのホーム開幕シリーズを追う]日本屈指の屋内施設、SAGAアリーナから熱狂が生まれる

posted2025/11/20 11:30

 
[本拠地とする2チームのホーム開幕シリーズを追う]日本屈指の屋内施設、SAGAアリーナから熱狂が生まれる<Number Web> photograph by Shiro Miyake

10.4 [SAT] 12:30 B1リーグ2025-26シーズンの開幕戦は対滋賀レイクス。SAGAアリーナをホームとして3年目を迎える

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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Shiro Miyake

2023年の5月にオープンしたSAGAアリーナは九州最大級の多目的アリーナ。ここをホームとするBリーグの佐賀バルーナーズ、SVリーグのSAGA久光スプリングスのホーム開幕シリーズを追った。

 待ちに待った日がやってきた。

 試合が始まるまではまだまだ時間がある。にもかかわらず、チームカラーのブルーのユニフォームを着用した人々が、アリーナを目指し、続々と集まってきた。

 入場を待つ人々がアリーナ周辺のオープンテラスに集まっている。テーブルで、飲食しつつ笑顔で会話する人たちがいる。そこかしこから、選手の名前が聞こえる。

 アリーナ入り口前の広場には、タコス、たこ焼き、アフリカ料理、ホットドッグ、さらにはスイーツと、世界各国や九州の食などを提供するキッチンカーが所狭しと並び、買い求める人でにぎわいをみせる。

 どこか高揚感の漂うそれらの光景は、「祝祭」を思わせた。

 10月4日、バスケットボールのトップリーグ「B1リーグ」西地区に所属する佐賀バルーナーズが滋賀レイクスを「SAGAアリーナ」に迎え、ホームでの開幕戦が始まろうとしていた。

 試合の開始時刻が近づくと、観客席が埋め尽くされていく。老若男女、世代と性別を問わず幅広い層であるのが分かる。

 MCやDJの盛り上げに観客が応じ、早くも声援が飛ぶ。光と音の華やかな演出とチアのダンスもあいまって、熱気が高まっていく。そして試合が始まる。

 バルーナーズはB1リーグに昇格して3シーズン目を迎える。初年度は昇格チームとして歴代最高勝率を記録、西地区5位と健闘したが、昨シーズンは主力に故障者が相次いだこともあって、西地区7位と苦しんだ。

 幕を開けた新シーズン初戦、それを払しょくするようなゲームを展開する。

 第1クォーターこそ、開幕戦から来る硬さもあったか、17-24とリードを許す。

 第2クォーターに流れが変わった。ディフェンスと小気味のいいパスワークが光り、32-14と差をつけて、第1クォーターと合わせて49-38とリードを奪う。第3、第4クォーターも流れを相手に渡すことはなかった。ファイナルスコアは92-68、大差の勝利で開幕戦を飾った。

 勝利の原動力となったのは36歳のベテラン、金丸晃輔。3ポイント5本を含む23得点をあげる活躍で、チームを開幕戦勝利へと導いた。金丸はこの試合でB1リーグ個人通算6000得点を達成。Bリーグ史上6人目の快記録で花を添えた。

 金丸だけではない。司令塔の角田太輝が起点となる攻撃のもと、今シーズンから加入したデイビッド・ダジンスキーは献身的なプレーとともに21得点をあげ、同じく新加入のタナー・グローヴスは豪快なダンクでチームを鼓舞する。

 先発メンバーに続くセカンドユニットも負けていない。主将である井上諒汰や新加入の内尾聡理らが粘り強くプレーし、そん色のない働きをみせる。

「まずは今季のいいスタートが切れたかなと思います」

 ヘッドコーチの宮永雄太は言う。

 2021年6月、バルーナーズのヘッドコーチに就任、5シーズン目となる。ディフェンスを強みとしつつそこからの速い展開での攻撃力を持つチームを志向する。

 そこにはBリーグでのバルーナーズの立ち位置の考察と、佐賀のチームであることから描く未来がある。

「この地方のチームでもビッグクラブを倒せる、トップチームを脅かせる存在になれる、というのを皆さんにお見せしたいという理想があります。その上で、佐賀というスモールタウンで、どうやってファンや企業の皆さんに喜んでもらえるかを常々考えています。誰か特定の選手に頼るのではなく、出ている選手全員が全力でディフェンスをして、そこから速い展開で全力で走ってみんなで点を獲りに行く、それがビッグクラブに挑む佐賀のスタイルであるべきだと思います」

 実現するために大切であるのは「連動性」。それはコート上にとどまる話ではない。

「選手のプレースタイルだけではなくて、現場と会社の連動性、佐賀県の皆さん、ブースターの皆さんとの連動性というのがないと、さらなる上位には上がっていけないなというふうに考えています」

 理想を実現するための舞台として、SAGAアリーナはある。九州最大級の多目的アリーナとして2023年5月13日に開業。天井のセンターに設置された4面の大型ビジョンをはじめとする設備、会場周辺の空間づくりなど細部まで気配りを感じさせるアリーナは、バルーナーズと、バレーボール女子のSAGA久光スプリングスのホームアリーナとして活用されている。

 SAGAアリーナのメリットと魅力を、宮永はこう語る。

「一つには、選手のリクルートがしやすくなったということがあります。『あのアリーナでやりたい』と思ってくれている選手がいますから。もう一つは、佐賀県の皆さんがふだん味わえない、非日常を味わえるような空間であることです」

 宮永はバルーナーズのヘッドコーチに就任する前、選手・指導者時代を通じて、全国各地のチームに籍を置いた。その中でさまざまな地域のスポーツ環境に接してきた。その経験を踏まえ、SAGAアリーナをはじめとする佐賀のスポーツへの熱とポテンシャルを感じている。

「SAGAアリーナもそうですが、『こんな県はないな』と思うくらい、佐賀県、佐賀市の皆さんにサポートいただいていると思います。加えて、すごく純粋な方が多いな、というのが佐賀県の皆さんへのイメージとしてあります。真っさらなところにみんなで色付けしていっている感覚です。

 クラブが掲げているビジョンに『日常に佐賀バルーナーズを』があります。サガテレビで、その日の夜のニュースにバルーナーズの試合を流していただけたり、皆さんの食卓にバルーナーズのコップがあったり、また大きなショッピングセンターでたくさん声をかけていただけるようになってきたり、少しずつビジョンが形になってきていると思います。その積み重ねが最も大事かなと考えています」

 バルーナーズは昇格初年度にB1全体で5位の観客動員を記録し、成績で苦しんだ昨シーズンも観客動員数を増やした。

「形になってきている」、その表れでもある。

 10月19日。場内は歓喜の声と拍手が響いた。

 この日、行われていたのはバレーボールのトップリーグ「SVリーグ」女子のSAGA久光スプリングス対クインシーズ刈谷の一戦。スプリングスはアウェーで迎えた開幕からの2試合で連敗したあと、前日のホーム開幕戦でも敗れ、3連敗を喫していた。

 その流れを断ち切るようなプレーを展開する。第1セット、長いラリーの中でも粘り強く拾いながら拮抗した勝負を繰り広げると、終盤に抜け出すことに成功、25-20で先取する。

 圧巻は第2セットだった。序盤、今年度の日本代表に選ばれるなど成長著しい北窓絢音の2本連続のサービスエースなどでリードする。さらに6-3からはアタックやブロックなどが決まり、9連続得点をあげる。その大差を最後まで保ったまま、25-11で連取した。

 第3セットこそ粘る刈谷に奪われるが、崩れることはなかった。第4セットは競り合いつつも北窓、そしてもう一人の日本代表、荒木彩花のスパイクなどで優位に立ち、25-20。セットカウント3-1で今シーズン初勝利をあげた。ブルーをベースとしたチームカラーのシャツに身を包んだ人々で埋まった観客席には、コート上と同様、笑顔があふれた。

「ちょっと感慨深いものがありましたし、ほんとうに声援が心強かったです。勝つことができてほっとしています」

 ヘッドコーチの中田久美は言う。2012-2013シーズン、スプリングス(当時の名称は久光製薬スプリングス)の監督に就任し、史上初の3冠達成など輝かしい実績を築いた。その後、女子日本代表の監督を経て、9シーズンぶりにチームに復帰した。

 スプリングスは昨シーズン、レギュラーシーズン3位でチャンピオンシップに進出し、セミファイナルで敗れてシーズンを終えた。

 一定以上の好成績を残したチームに、ポテンシャルのある選手がたくさんいると感じた一方で、大きな課題があることにも気づいたと言う。

「練習不足ということです。フィジカルも、そしてメンタル面も含めてひとまわりもふたまわりも強くなっていかなければいけないと思いました」

 それらの根底にある、選手の取り組む姿勢にも物足りなさを覚えた。

「一生懸命やってはいると思うんですけれど、ただ一生懸命やっていてもうまくなりません。より高いレベル、例えば世界を目指していくのなら、どういう取り組みを継続していくのか、自分の武器は何なのか、選手としての意識であったり、もっと言えば、自分にとって人生とは、バレーボールとは、どういうものなのかをしっかり掘り下げていってもらいたいと思っています」

 だから、「主体性」が重要だと考える。

「言われたことだけを一生懸命努力するのではなく、いろいろなことを自身で考えて取り組んで答えを出していく主体性が、大事なんじゃないかなと思います」

 これまでの姿勢を根本からあらためるのは時間がかかる作業である。だから開幕からの3連敗も落ち着いて受け止めている。

「いい意味でぶち壊さないといけないですから。3連敗してだいぶ壊せたのかなと思っています。そこであげた1勝をきっかけに、これをどう積み上げていくのかというところになってきます」

 積み上げた先に、より高みに達したチームの姿があると信じる。

 中田が思い描くのは、チームの成績だけではない。

「まだまだ日本の女子団体スポーツの価値というのが、男子と比べるとちょっと差があるのかなとすごく感じています。スプリングスが女子団体スポーツの価値を高めていくロールモデルとして、佐賀から発信していけたらと思います」

 以前の監督時代、チームは神戸を拠点としていた。佐賀に移った今、この地ならではの可能性も感じる。

「大都市だと、なかなかやりたいこともできなかったりする部分があると思います。大都市と比べればコンパクトな佐賀だからこそ動きやすかったり、できることがあるんじゃないでしょうか。それに佐賀には、バスケットボールも、サッカーもあるじゃないですか。九州では珍しいですよね。それらの競技で協力しながら、いろいろな発信をしていくこともできます。佐賀県は、『SSP』(SAGAスポーツピラミッド構想=世界に挑戦するトップアスリートの育成を通じてスポーツ文化〈する、観る、支える、育てる、稼ぐ〉の裾野を拡大し、さらなるトップアスリートの育成につながる好循環を確立することで、スポーツのチカラを活かした人づくり、地域づくりを進めるプロジェクト)の取り組みをはじめ、スポーツへの理解が非常に高い県です。それも強みだと思っています」

 恵まれた環境のもと、あらためて選手の成長に期待を寄せる。

「勝ったり負けたりが続くとは思いますが、選手たちに挑戦し続けてほしいですね。なぜ勝たなければいけないのか、何のためにやっているのか、自分はどうしたいのかを明確にしながら、追求してもらいたいです」

 佐賀に暮らして5年、オフは各地で楽しみながら生活をおくる宮永は言う。

「『My best SAGA』と言えば、なんといってもSAGAアリーナです。バルーナーズとSAGAアリーナは、一緒に成長して、ともにもっと盛り上げられる関係だと思います。オール佐賀で盛り上げていきたいという思いです」

 初めての佐賀生活に「食がおいしいですよね。特に佐賀牛は、間違いなく日本でいちばんおいしいです」と笑顔の中田は、SAGAアリーナでのホーム開幕2連戦を終えて感じたことがある。

「ナショナルチームのときの雰囲気に似ているなと思いました。なんて言ったらいいんだろうな。日本代表のときもそうなんですけれど、日頃のいろいろなストレスだったり、生活があったり、そんな中で夢を託してくれているような気がして、アリーナに、日本代表に近い熱量を感じました」

 佐賀の人々のために――その舞台は整っている。

 SAGAアリーナを夢の空間とし、熱狂を生み出すべく、2つのチームは使命感とともに自らの可能性を信じて進む。

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