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「正直、野球をできるメンタルではなかった…」DeNA蝦名達夫28歳が悲劇を乗り越えて1番に定着した“覚悟”「恩返しのためにも日本一連覇を」
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石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byJIJI PRESS
posted2025/10/06 11:01
後半戦でトップバッターに定着し、打率.284、8本塁打、41打点とすべてキャリアハイの成績を残した蝦名の「分岐点」になった悲劇とは……
これまで蝦名を見てきて常に感じるのは、その心と芯の強さだ。怪我や不調に見舞われようが、膝を突くことなく体を起こし、顔を上げ、前を見つづけバットを振る。その佇まいは、まさに“北の武人”だ。キャリアを重ね、選手として相当心が練り込まれてきているように感じられる。
「やっぱりこれも経験の積み重ねですよね。経験から過去を見てどっしりしていられるというか、こういう場面ならばこうすればいいというマインドが徐々にできているのが大きいと思います。だから今は若い選手を見ると、ああその気持ちわかるよって客観的に感じられるようになってきましたね」
蝦名の心を乱した悲劇が
蝦名も28歳になり、中堅選手として視野も広くなった。
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「とにかく自分のルーティンを守り、マインドを保つこと。同じメンタル、同じ気持ちでやっていくことが大事だと思います」
だが今年、そんな蝦名の不動心が大きく乱れる出来事があった。5月に6歳上の兄が急逝した。蝦名にとって兄は野球を始めるきっかけを与えてくれた憧れの人であり、そのショックは計り知れない。
静かに蝦名は最愛の兄について語る。
「突然だったので、正直野球ができるメンタルではありませんでした……。それでもやっぱり兄貴は野球が好きだったし、たまに球場に来てくれることもあったので、逆に活躍することが兄貴にとってうれしいことだと思うので、そこで何とか……」
今年一番の分岐点となった覚悟
心を込め、一言一言を丁寧に紡いでいく。
「なかなか切り替えるのは難しかったのですが、でも試合に出ることが恩返しというか、兄貴も喜んでくれると思うので、ひと踏ん張りというか、つらかったですけど自分でやるしかないなって。その覚悟というのが、今年一番の分岐点だったと感じています」

