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「僕のイメージでは打率10割です」V9巨人でなぜ長嶋茂雄は“特別な存在”だったのか? サインを見逃し罰金を命じられても「屁でもなかったはず…」
posted2025/07/28 17:00
笑顔の三番・王、監督・川上、四番・長嶋。V9を達成した翌'74年に後楽園球場で撮影
text by

長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph by
AFLO
発売中のNumber1124号に掲載の[歴史的偉業の背景]1965-73 V9を支えた「体感10割」より内容を一部抜粋してお届けします。
ミスターは「僕のイメージでは打率10割」
「プロ野球選手というのは結果がすべて。ホームランにしても打点にしても、王(貞治)さん、張本(勲)さんをはじめ、長嶋(茂雄)さんよりも数字を残している選手は何人もいます。それでもミスターがこれだけ人気なのはどうしてだと思いますか?」
1968年にプロ入りし、V4からV9までレフトのレギュラーとして長嶋のプレーを間近に見てきた高田繁。彼に「V9時代の長嶋茂雄について伺いたい」と告げると、逆に質問された。高田の答えはこうだ。
「それはね、ファンはもちろんチームメイトが“頼む、ここで打ってくれ!”という場面で、100%打ってくれたからですよ」
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データを調べるまでもなく「100%打ってくれた」事実はない。それでも、迷いのない口調で高田は続ける。
「もちろん、そんなはずはないんだよ。でも、本当にみんなの期待を裏切らないバッターだった。天覧試合、オールスター、日本シリーズと、ビッグゲームになればなるほど確実に結果を残している。僕のイメージでは打率10割なんですよ。“バカじゃないか?”って思われるかもしれないけど、それぐらい勝負強かったんだから」
その姿は、熱烈なジャイアンツファンが「オレが見ていたら長嶋は必ず打つんだよ」と無邪気に語っているようだった。
「何を言ってるの、僕はファンの人たちよりもっと間近で見ているんだよ。“絶対勝ちたい!”というときに、長嶋さんは必ず打ってくれるんだから」
身振りを交えて高田が力説する。チームメイトから絶大な信頼を寄せられる勝負強さこそ、長嶋の最大の持ち味だった。
「何をやっても、何を言っても、光り輝いている。長嶋さんのいるところはそこだけポンと明るくなる。それなのに、こんなことを言ったら失礼だけど、グラウンドを離れたら普段は本当に面白い人なんですよ」
“長嶋茂雄”を演じている部分も
'36年に生を受けた長嶋と'45年生まれの高田の間には、9つもの年齢差がある。それでも、高田にとってグラウンド外の長嶋は「面白い人」だった。
「子どもを球場に置いたまま帰ってしまったとか、“車のキーがない”と言って大騒ぎしてみんなで探していたのに、“あっ、今日はハイヤーで来たんだった”って言ったとか、エピソードには事欠かないからね。だけど僕は、すべてが長嶋さんの地だとは思わない。多少は“長嶋茂雄”を演じている部分もあったんじゃないのかな?」

