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52歳でNHK退局「妻も“そのうち辞めるだろう”と」あのスポーツ名実況アナが決断理由を明かす「ラグビーW杯で…あ、後輩も大丈夫だな」 

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posted2025/07/23 11:00

52歳でNHK退局「妻も“そのうち辞めるだろう”と」あのスポーツ名実況アナが決断理由を明かす「ラグビーW杯で…あ、後輩も大丈夫だな」<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

今年、NHKを退局した豊原謙二郎アナウンサー。これまでのキャリアと今を聞いた

「ありがたいことに『もうちょっと一緒にやりたかった』とか『まだまだ教えて欲しいことがあった』と言ってもらえました。これは本当に嬉しかったですね。そういう意味で、勝手に決断して申し訳ない気持ちはありますね。

――後輩のアナウンサーに伝えたことはありますか?

「辞める時というよりは、日頃から『なぜスポーツ中継をやるのか?』を考えるように問いかけはしていました。なぜ日ごろ子供番組を放送しているEテレが、それをとめてまで高校野球を流すのか、それを考えないと『打ちました』『捕りました』と単純なプレーをしゃべるだけになってしまいます。

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 スポーツ実況は2~3時間の生中継の世界ですから、アナウンサーのポリシーや人生観が出るものです。正解を求めなくても良いから、自分なりに『高校野球はこういうもの』という考えがあるべきで、それがないと放送の深まりもないと私は思っていて。人の心を震わせるような実況をするためには立ち返るものがあったほうがいい。しっかりと視聴者に説明できるんです」

ラグビーW杯の実況で「あ、もう大丈夫だな」と

 豊原がNHKでの実況のハイライトに挙げるシーンの一つに、2019年ラグビーW杯アイルランド戦がある。日本代表が格上相手に勝利をもぎ取り、史上初のベスト8入りを大きく手繰り寄せた一戦だった。実況席にいた豊原は「もうこれは、奇跡とは言わせない」と叫んだ。

 遡ること4年前、2015年大会で強豪・南アフリカを撃破した歴史的な一戦でも実況を担当した豊原は、その勝利を「奇跡」と評されたことに違和感を覚えていた。その裏には確固たる準備があった。違和感に向き合い続けた豊原だからこそ、発することができた名実況だった。

◇ ◇ ◇

――想いを託せる後輩はいましたか?

「それこそ、2023年ラグビーW杯では、開幕戦や予選プール初戦のチリ戦を後輩に託しました。目立つところ(地上波放送の試合)は後輩に託し、自分は(BS中継だった)イングランド戦までやらないと決めていました。その試合の実況がひどかったら『まだまだじゃないか』と出ていくつもりでしたけど(笑)、すごく立派にやり遂げてくれました。偉そうな言い方になりますが、あ、もう大丈夫だなと」

今後の進路を意識した出来事はあったのか

――実況者として、まだやれるという自負もあったと思います。

「すごく僭越なのですが、自分の中で元サッカー日本代表のキーパーの松永成立さんと川口能活さんの関係性を重ね合わせていました。松永さんがまだバリバリの現役選手だった頃、所属する横浜マリノスに川口能活さんが大型ルーキーとして入団してきて、守護神の座を代えられたじゃないですか。松永さんはクラブを離れたわけですが、あの時の気持ちがわかるような気がして。やれる自信があるけど、でも次の世代を担うべき人間が入ってきた。松永さんもきっと彼なら託せると思った部分もあったと思うんです。引き際や世代交代をアスリートに重ねて意識していましたね。

――そんな中で、今後の進路をハッキリと意識した出来事はあったんですか?

◇ ◇ ◇

 幾多の名場面を実況してきた豊原が、NHKを辞めてまで見つけた“やるべきこと”とは何か。後編では「52歳のステージチェンジ」決断の真相に迫った。
後編に続く

#2に続く
「不安しかありません」NHK退局後の本音…豊原謙二郎アナ52歳はなぜ“1人会社の社長”になったか「青臭いですが」背景に“尊敬する2人と53歳”
この連載の一覧を見る(#1〜3)

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