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嘲笑された柔道金メダリスト、元横綱もファンに見放され…なぜ他競技からの“プロレス転向”は難しいのか? 失敗から考えるウルフアロン「成功のカギ」 

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布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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photograph byAsami Enomoto/JMPA

posted2025/07/06 17:04

嘲笑された柔道金メダリスト、元横綱もファンに見放され…なぜ他競技からの“プロレス転向”は難しいのか? 失敗から考えるウルフアロン「成功のカギ」<Number Web> photograph by Asami Enomoto/JMPA

新日本プロレス入団を発表した柔道金メダリストのウルフアロン。過去には多くの“転向組”がプロレスへの適応に苦労した

 試合はアレンが一方的にマクニーを何度も投げ捨て秒殺した。1発目の投げにこそ観客席は大きくどよめいたが、その後は打ち込み稽古のような展開になったため、観客の反応も徐々にトーンダウン。案の定、アレンが勝ち名乗りを受けても、拍手はまばらだった。

 おそらく試合経験を積ませることでアレンを一人前のレスラーに育てようという方針だったと思われるが、技のラリーがあるような普通のプロレスではなかった。その後、アレンはヒール(悪役)として大成するのだから、レスラーとしての才能はあったのだろう。とはいえ、あのときのマクニー戦は観客の前で披露する内容ではなかったのではないか。

かつてウルフアロンが言った「MMAには興味がない」

 柔道家時代のウルフを2度、取材したことがある。初めての取材でセカンドキャリアの話題になったとき、「MMAに興味はないの?」と聞くと、ウルフは「全く興味がない」と言い切った。「だったら、プロレスの方が興味あります。新日本プロレスとか、WWEとか」。具体的に団体名まで口にしたのだから、セカンドキャリアの選択肢のひとつとして考えているのだろうと思った。

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 ウルフの新日本入団はプロレス・格闘技界にとって大きなターニングポイントになる気がしてならない。21世紀になってから吉田秀彦、瀧本誠、石井慧と3人の五輪金メダリストが立て続けにMMAの世界へ飛び込んだ。なぜMMAを選んだかといえば、柔道のスキルが試せそうな新しい格闘技に魅力を感じたからにほかならない。加えて、世間からの評価や注目、それ相応の報酬を受けることができたのも大きいと思われる。

 その間、プロレス界には大物柔道家が鳴り物入りで参入することはなかった。しかし時代は繰り返される。ウルフの新日本入りは、柔道やレスリングのオリンピアンに“古くて新しい選択肢”を提示した。今後、ウルフはプロレスラーとしてどのように羽ばたいていくのか。モデルケースとして坂口征二や小川直也の例はあるが、彼らがマットに上がっていたときと比べるとプロレスラーに対するニーズは大きく変化してきている。同じレールの上を歩むのではなく、自ら新しい道を切り開いていく方が賢明だろう。

【次ページ】 ウルフアロンの“トーク力”は武器になるか

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