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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「骨が飛び出てて…」敗者・西田凌佑が明かした“2つの誤算”…「バキッ」「めちゃくちゃ痛かった」中谷潤人のバッティング「右目、8割見えなかった」
text by

曹宇鉉Uhyon Cho
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2025/06/15 11:03
棄権直前、6ラウンド終了後。西田凌佑の右目はほとんどふさがっていた
「7、8割見えていなかった」
言い訳はなかった。接近戦を選んだ以上、バッティングは起こり得ることだ。だが、序盤の中谷の猛攻をしのいだ西田は3ラウンドからペースを握り始めていた。ポイント上でも3、4ラウンドはほぼ西田が奪っている。見ている側としては、どうしても「あのバッティングがなければ」と考えてしまう。
西田陣営の本音はどうなのか。参謀の武市晃輔トレーナーはこう話す。
「運がなかったなと。もうちょっと下とか、逆に上なら、戦い続けられていたと思うんですけど。ホンマにここ(眼球周辺)に当たって、3ラウンドが終わって帰ってきた瞬間に腫れてたんで」
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右目の腫れはラウンドを重ねるごとに大きくなり、西田の視界を塞いでいった。5ラウンド終盤にはドクターのチェックが入る。「7、8割は見えていなかった」という西田の死角から、中谷は容赦なく左フックを叩き込んだ。
「バッティングで止めとったら…」
偶然のバッティングによって試合続行が不可能となった場合、規定のラウンド数(10回戦以上は5ラウンド以降)に到達していれば負傷判定で勝敗が決まる。仮に6ラウンド終了時点で「棄権」ではなくレフェリーの裁定によって試合がストップされていたとしても、結果は中谷の判定勝ち(58-56、59-55、58-56)で変わらない。しかし、それこそ“たられば”でしかないが、もし5、6ラウンドを西田が取ったうえで負傷判定になっていればスコアは逆転していた。
詮ないこととはいえ、そんな計算が関係者の脳裏をかすめた瞬間もあったのかもしれない。棄権を決断した六島ジムの枝川孝会長は、一夜明け会見で率直な思いを口にしている。
「後で振り返ってみると、レフェリーが偶然のバッティングで止めとったら判定になっとったんでしょうけど、もうそんなん考える余裕なかったです」
枝川会長が「ボコボコにされて傷ついても意味がない」と話した通り、右肩を負傷し、右目が塞がったまま中谷と戦い続けても勝機はほぼなく、さらにダメージが深くなっただけだろう。棄権は陣営の英断だった。それは間違いない。
中谷“クリンチ原因説”は本当か?
では、試合の趨勢を左右したもうひとつの、そしておそらくは最大の要因である右肩の脱臼についてはどう考えるべきなのか。そもそも、西田はどのタイミングで肩を痛めたのだろうか。


