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「イノウエは手が下がる瞬間が」井上尚弥が出血“異変をもたらす急所”は左フックなのか…カルデナスとネリの一撃に「寿命が縮まった」じつはドネアも
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NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph bySteve Marcus/Getty Images
posted2025/05/07 06:02
カルデナス戦、8回TKO勝利した井上尚弥。しかし2回、左フックを浴びてプロ人生2度目のダウンを喫し、鼻から鮮血した場面も
山中慎介戦での体重超過問題、対戦相手への礼節を欠いているかのような言動など、近年のボクシング界で有数の問題児が、ついに井上と戦う。モンスターのハードパンチが溜飲を下げさせてくれるはず――実際、井上は6回1分22秒でTKO勝ちを収めるのだが、戦慄の場面が訪れたのは初回だった。
井上が左アッパーから右のコンビネーションを放とうとしたところを、ネリは狙いすましていた。右のガードが下がった瞬間、左腕を低い位置からフックで振り切ったネリの一撃を顔面にもらった井上は、横倒れになった。プロキャリア初のダウンに会場の東京ドーム、そして配信を見守る視聴者たちは凍り付いた。そして誰よりも間近で井上の強さを見てきた大橋ジムの大橋会長のコメントは、生々しい実感がこもっている。
「死を覚悟して戦う」
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奇しくもネリは、カルデナスと試合前に同じ言葉を口にしていたのも興味深い。
ドネアも狙っていた「左フックの強打」
<名言3>
回復した後に左フックの強打を狙い、一撃で倒す。私はそちらに賭けた。
(ノニト・ドネア/Number990号 2019年11月14日発売)
◇解説◇
ネリ、カルデナスと井上が喫したプロ人生2度のダウンは、思わぬ方向から飛んできた「左フック」でだった。
じつは同じ一撃を「最後の切り札」として語っていたのが6年前のWBSSバンタム級決勝、井上と伝説の死闘を演じたノニト・ドネアである。
5階級制覇のレジェンドだが、ピークを過ぎた選手――。井上尚弥とWBSS決勝で対戦したドネアに対しての印象は、大半がこのようなものだった。しかし、当時の時点で誰よりも井上を追い詰めた男になったことは今も記憶に新しい。
2回、ドネアの痛烈な一撃を浴びて右眼窩底と鼻を骨折し、右目上から流血した。この際の一撃も左フックだったのだ。
この試合、ドネア視点に立つと……11回にダウンを奪われた直後のファイナルラウンドは「できる限り強いパンチを当てることに徹した」と、逆転KOを最後まで狙っていたことを試合翌日のインタビューで明かしている。
「イノウエは手が下がる瞬間がある」
カルデナス戦を現地ラスベガスで取材したライター渋谷淳氏の記事によると、カルデナスは「井上は手が下がる瞬間がある。そこを狙った」と話していたという。この試合とネリ戦を受けて今後、井上の試合時には“相手の左フック”が1つの焦点になるのかもしれない。
とはいえダウンを喫したとしても、そこからリカバリーして試合を組み立て直し、キッチリと防衛を積み重ねたという事実こそ、井上のモンスターたる所以ともいえるのだが……。〈井上尚弥特集:関連記事へ〉


